🌙 睡眠障害
睡眠障害について
睡眠障害に関する記事(全1本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
睡眠時間は加齢とともに自然に短くなるため、「8時間」という数字にこだわらず、日中快適に過ごせているかを目安にすることが大切です。生活リズムの乱れや不眠を放置すると、生活習慣病やうつ病のリスクが高まることもわかっています。日常生活でできる12の工夫や、睡眠薬との正しい付き合い方についても紹介しています。
1. 睡眠・不眠症について
1-1. 睡眠の大切さと不眠の実情
睡眠時間は年々短くなる傾向にあり、不眠を放置すると生活習慣病やうつ病のリスクも高まります。
私たちは、人生の4分の1以上を眠って過ごしています。人生をおよそ80年とすると、20年以上は眠っていることになります。そのため、睡眠がとれていると快適な生活を送れる一方で、眠れないということはとても苦しく耐え難いものでもあります。
生活スタイルは夜型化し、睡眠時間は減少する傾向にあり、1960年には平均8時間13分だった睡眠時間が2010年には7時間14分にまで減少し、22時に就寝している人の割合も70%から25%に減少したというデータがあります。
良い睡眠がとれていないと、生活の安全そのものが脅かされることもあります。睡眠不足や睡眠時無呼吸による交通事故・産業事故のニュースも見られ、睡眠に問題があると血圧が上昇したり、うつ病にかかりやすくなったりします。実際、日本人男性約2,600名を8年間追跡した調査では、睡眠障害のある人は2型糖尿病のリスクが2〜3倍高いことが示されており、日本人男性約6,000人を4年間追跡した調査でも、睡眠障害のある人は高血圧の発症率が高いことが示されています。うつ病についても、不眠症のある方は3年以内にうつ病になるリスクが4倍高まり、不眠の状態が続くほどうつ病の発症リスクも高まるといわれています。不眠が続くと、倦怠感・意欲低下・集中力低下・頭痛・めまい・食欲不振といった不調が日中に現れ、仕事の効率が落ちてしまうこともあります。夜間の不眠が続き、日中に心身の不調を自覚して生活の質が低下している場合は、病院の受診を検討するとよいでしょう。
寝床に入っているのに眠れない不眠は、成人の約20%にみられます。この頻度は年をとるにつれて増えていき、60歳を超えると30%を超えるといわれています。眠りについて理解し、考え方を切り替えて睡眠習慣を整えることができれば、睡眠の問題を解決できることも多くあります。そうした工夫でも不眠が改善しない場合には、病院を受診して相談するという方法もあります。
1-2. 加齢と睡眠
年齢を重ねるほど必要な睡眠時間は短くなるため、「8時間」にこだわらず日中快適に過ごせているかを目安にするとよいでしょう。
日本の一般成人を対象にした不眠調査では、20〜30代で13.9%、40〜50代で16.2%、60歳以上で25.2%と、年代が上がるにつれて不眠の割合が高くなることが示されています。年齢を重ねると睡眠は全体的に浅くなり、眠れる時間が少しずつ減ってくるのが自然な変化です。
目安を挙げると、15歳前後で8時間ほど、25歳前後で7時間ほど、45歳前後で6.5時間ほど、65歳前後で6時間ほどと少しずつ短くなり、70代に入ると6時間を切ることも珍しくありません。加齢とともに筋肉量が減少し、消費するエネルギーが少なくなるため、回復のために必要な睡眠時間そのものが短くなっていくのです。
必要な睡眠時間は、成長や加齢とともに変化します。小学生では9〜10時間、その後20歳までに7〜7.5時間程度になっていきますが、10歳代は個人差が大きく、7時間で十分な中学生がいる一方で8時間以上の睡眠が必要な大学生もいます。成人後は必要な睡眠時間があまり変化せず安定し、65歳以上になると6時間程度の睡眠になることが知られています。平成28年に総務省が行った社会生活基本調査によると、眠るために布団に入っている時間の長さは、15〜19歳で7.3時間と睡眠不足の傾向がある一方、60歳以降になるとかえって布団に入っている時間が長くなっていき、70〜74歳では男性で8時間、女性で7.6時間と、実際に眠れる時間に比べて布団で過ごす時間のほうが長くなっていることがわかりました。
体が欲している睡眠時間が6.5時間くらいであっても、8時間は眠りたいと思っていると、1.5時間くらいは眠れないまま寝床で過ごすことになり、これを「ぐっすり眠れない」と感じてしまう人もいます。そのため、年齢を重ねるごとに少しずつ「寝床にいる時間を短くし、早起きにしていく」ことで、体に合った適切な睡眠時間が得られるようになります。眠れないと感じている高齢者では、睡眠時間をあえて6時間前後に短くすることで、かえって眠りにくいという感覚が解消することもあります。「8時間眠らないと気がすまない」と睡眠時間そのものにこだわらず、日中に快適に活動できていれば十分な睡眠がとれていると考えるとよいでしょう。ただし、睡眠時間が6時間以下で日中の活動に支障が出るほど眠れない場合は、病院の受診を検討しましょう。また、年をとると増える不眠のタイプに、夜中に目が覚める「中途覚醒」がありますが、これは前立腺肥大や過敏性膀胱などによる頻尿が背景にあることも多いといわれています。
1-3. 生活の変化と体内時計
生活リズムが大きく変化する出来事があると体内時計が乱れやすくなり、日光・人との交流・ブルーライト対策が整える助けになります。
私たちのこころの健康を保つための重要な脳機能の一つに、体内時計があります。体内時計がスムーズに働くと心地よさを感じられるようにできている一方、体内時計が乱れると、うつ病や糖尿病、肥満などさまざまな心身の状態が悪化することが研究で示されています。
新型コロナウイルス感染症流行時の自宅待機のように、生活リズムが大きく変化する出来事に直面すると、体内時計は乱れやすくなるだけでなく、一度乱れた体内時計をもとに戻すことも難しくなります。仕事や人との関わりといった、毎日決まって行ってきた社会的な活動(日課)が失われると、体内時計が変調をきたし、不眠・食欲低下・元気が出ないといった、時差ボケに似た不調が生じやすくなります。
そのような時期こそ、体内時計を整える工夫が助けになります。なるべく午前中を中心に屋外で日光を浴びる時間をつくること(外出が難しい日は、窓際で2時間ほど過ごすだけでもよいとされています)、人との交流を絶やさないこと(直接会えなくても、電話やビデオ通話で気持ちを分かち合う時間を、できれば毎日同じくらいの時間帯に持つこと)、そしてスマートフォンやパソコン、テレビの画面から出るブルーライトは体内時計を狂わせるため、寝る前は使用をやめ、音楽を聴いたり読書をしたりして過ごすことが挙げられます。
1-4. 睡眠を改善させるための日常生活のヒント12項目
厚生労働省の睡眠障害ガイドラインに基づく12項目は、睡眠時間へのこだわりを手放すことから、光・食事・運動の使い方、注意すべき症状まで幅広くカバーしています。
厚生労働省の研究結果をもとに作成された睡眠障害の診断・治療ガイドラインでは、睡眠を改善させるための日常生活の工夫として、次の12項目が推奨されています。
- 睡眠時間にこだわりすぎず、日中を快適に過ごせているかを基準に
- 就寝前は刺激物を遠ざけ、自分に合ったリラックス習慣を持つ
- 眠気を感じてから寝床に入り、就寝時刻に神経質にならない
- 起床時刻はできるだけそろえる
- 朝の光を上手に取り入れる
- 3度の食事と運動習慣でリズムを整える
- 昼寝は15時より前、20〜30分程度で切り上げる
- 眠りが浅いと感じたら、あえて就寝を遅らせ早起きする
- 大きないびき・呼吸停止・脚のむずむず感には要注意
- 眠っているのに日中の眠気が強いときは専門医へ相談を
- 睡眠薬代わりの寝酒はかえって不眠を招く
- 睡眠薬は医師の指導のもとで正しく使えば安全
睡眠時間の長さそのものより、日中を快適に過ごせているかどうかを目安にすることが大切です。必要な睡眠時間には個人差があり、季節によっても変わるため、「8時間眠らなければならない」と数字にとらわれる必要はありません。体が求めている以上に眠ることはできないので、日中に眠気で困らなければ、それで足りていると考えてよいでしょう。休日に平日より3時間以上多く眠ってしまうときは、睡眠不足がたまっているサインの一つです。反対に、だらだらと長く寝床にとどまるほど眠りは浅くなり、ぐっすり眠れた感覚は薄れていきます。睡眠時間は年齢だけでなく暮らし方にも左右され、活動量が多い日や寝不足が続いた後は多めの睡眠が必要になり、冬場は夏場より長くなる傾向もあります。冬に気分が落ち込み春に回復する「季節性感情障害(季節性うつ病)」という病気では、抑うつ症状とあわせて眠気が強く出ることもあります。
就寝前の過ごし方にも工夫の余地があります。カフェインは代表的な覚醒物質で、緑茶・コーヒー・紅茶・ココア・コーラ・栄養ドリンク・チョコレートなどに広く含まれており、摂取するとおよそ30分で効き始め4〜5時間ほど作用が続くうえ、利尿作用で夜中の尿意にもつながるため、寝る4時間前からは控えるのが無難です。たばこのニコチンも交感神経を刺激して眠りを妨げるため、就寝1時間前からは避けましょう。かわりに、軽い読書や音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングなど、自分に合った落ち着ける習慣を持つと眠りに入りやすくなります。就寝時刻を厳密に決めすぎないことも大切です。「眠らなければ」という意気込みがかえって目を冴えさせてしまい、普段の入眠時刻の2〜4時間前はもっとも寝つきにくい時間帯であることが知られています。一方で起床時刻はできるだけ毎日そろえることがポイントで、休日も含めて同じ時刻に起きると睡眠と覚醒のリズムが安定します。早く寝ようとするよりも、まず早起きを心がけることが、結果として自然な入眠につながります。
光との付き合い方も体内時計を整えるカギです。起きたらまずカーテンを開けて日光を浴び、夜は照明を落として過ごすようにしましょう。朝、目に入った光は体内時計をリセットする働きを持ち、そこからおよそ15〜16時間後に眠気が訪れます。この朝のリセットを怠ると、夜の入眠が1時間近く後ろにずれることもあります。食事と運動も睡眠を左右します。朝食は心身のスイッチを入れる役割を果たし、逆に夜遅い食事は消化活動が睡眠の妨げになります。散歩・ランニング・水泳・ストレッチといった、軽く汗ばむ程度の運動を30分ほど習慣にすると、夜の眠りの質が上がるとされています。昼寝を取り入れる場合は15時になる前に20〜30分ほどで切り上げ、長い昼寝や夕方以降の昼寝は夜の睡眠を妨げるため控えましょう。
眠りが浅いと感じるときは、あえて就寝を遅らせて早起きにするという逆転の発想も有効です。寝床で過ごす時間を必要以上に延ばすと、少しでも眠ろうとする意識がかえって眠りを浅くしてしまうため、寝床にいる時間を絞るほうが熟睡感につながりやすく、目安となる睡眠時間は6〜7時間程度(高齢者では5〜6時間程度)とされています。また、激しいいびきや呼吸が止まる様子、脚のピクつきやむずむずする感覚が続く場合は、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群といった病気が背景に隠れていることがあります。十分眠っているつもりでも日中の眠気が強く仕事や学業に支障が出る場合も、無呼吸症候群やナルコレプシーの可能性があるため、検査のできる医療機関への受診を考えましょう(車の運転をする方は特に注意が必要です)。なお、寝つきをよくしようとお酒に頼るのは避けたい習慣です。アルコールは一時的に寝つきをよくしても、その作用は夜中には切れてしまい、後半の睡眠はかえって浅く途切れやすくなります。飲み続けると耐性がついて同じ量では効かなくなり、量が増えていく悪循環にも陥りやすく、アルコール依存症や飲酒運転、失職といった深刻な問題につながることもあります。不眠が続くときはお酒に頼らず、医療機関に相談することをおすすめします。
1-5. 睡眠薬について正しく知る
現在の睡眠薬は種類によって依存性や作用のしかたが異なり、正しく使えば安全に、必要であれば段階的に減量していくこともできます。
睡眠薬というと、「飲むと頭がぼーっとしてしまうのでは」「使っているうちに効かなくなって、量がどんどん増えていくのでは」「体がふらついて夜中に転んでしまうのでは」といった心配の声を、診察の場でもよく耳にします。ぼんやりする感覚については、睡眠薬にはいろいろな種類(主に作用時間や作用機序)があり、自分に合わない睡眠薬だと眠気が残ることがあるため、医師と相談して自分に合った薬を調整してもらうことが大切です。
「癖になって量が増える」という心配については、昔の睡眠薬には飲み続けると効かなくなり量が増えてしまう「耐性」という現象がありましたが、現在は薬が改良され、そうした睡眠薬はあまり使用されなくなっています。適正な量を使っていれば耐性は生じにくいものの、効かないからといって自己判断で多めに飲んだりすると耐性が生じることがあるため、自己判断で量を増やさないことが重要です。ふらつきについては、高齢者の場合、筋力が低下しているため睡眠薬で転びやすくなることがありますが、その場合は筋弛緩作用のない睡眠薬もあるため、そうした薬を処方してもらうといった工夫ができます。使用上の注意を守れば、睡眠薬は安全に使用することができます。
薬による不眠症治療は、現在では「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」といわれるGABA受容体作動薬が使われてきましたが、その後、体内時計を介して眠りをもたらす「メラトニン受容体作動薬」が発売され、さらに、覚醒にかかわる脳内物質オレキシンの働きを抑えることによって睡眠に導く「オレキシン受容体拮抗薬」も開発され発売されました。かつてはベンゾジアゼピン系睡眠薬がよく使用されていましたが、飲み続けることで効きにくくなり量が増えてしまう「常用量依存」が問題となったため、現在では最初から使われることは少なくなっています。依存性がないという観点から、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬(ロゼレム、ベルソムラ、デエビゴといった商品名)が使用されており、比較的新しいこれらの薬は、まず最初に処方される薬となっています。メラトニン受容体作動薬は作用が弱くあまり効かないと言われることも多く、その場合はオレキシン受容体拮抗薬が最初に処方されることが多くなっています。眠れないときにだけ飲む「頓服」という使い方も可能なため、希望がある場合は医師に相談してみるとよいでしょう。
睡眠薬を長期間使用してきた場合、やめられなくなるのではないかと心配になるのは自然なことです。かつて使われていた薬の中には依存性の強いものもありましたが、現在使われている睡眠薬は継続して服用しても強い依存性はないといわれています。一方で、ベンゾジアゼピン系睡眠薬については、漫然と継続使用すると、適正用量の範囲内であっても減量や中止が困難になることがあります。決められた量を長期間使用していた状態から急激に中止すると、「反跳性不眠」といわれる激しい不眠が再燃することがあり、高用量のベンゾジアゼピン系睡眠薬を急激に中止すると、不安・緊張・不眠・イライラ・動悸・発汗・吐き気などの身体不調(退薬症候群)が現れることもあります。そのため、長期間ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用していた場合、減量・中止する際は急にやめるのではなく、徐々に減らしていく方法がとられます。具体的には、まず4分の3の量に減らして2〜4週間継続し、その後2分の1に減量して2〜4週間、さらに4分の1に減量して2〜4週間続けたのちに中止する、といった手順が一般的です。
出典・参考文献
「睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版」
「睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識」
「医療・看護・介護のための 睡眠検定ハンドブック」