🧩 統合失調症
統合失調症について
統合失調症に関する記事(全5本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
統合失調症は、幻覚・妄想などの「陽性症状」と意欲低下などの「陰性症状」を特徴とする、脳内の神経伝達物質のバランスが関わる病気で、100人に1人ほどが経験する決して珍しくない疾患です。治療は抗精神病薬による薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて行い、服薬を続けることが再発予防の鍵になります。幻聴(正体不明の声)への具体的な対処法や、合併しやすい肥満・糖尿病の予防法もあわせて紹介しています。
1. 統合失調症ってどんな病気?
1-1. 統合失調症とはどんな病気?
統合失調症は、感覚や考え、気持ちの統合が障害される疾患で、幻聴や被害念慮などの症状が特徴です。
統合失調症とは、感覚や考え、気持ちなどの統合が障害される疾患です。代表的な症状としては、周りに人がいないにもかかわらず「誰かの声が聞こえる」といった幻聴、「誰かに嫌がらせをされている」と感じる被害念慮、「誰かに追いかけられている」と感じる追跡念慮などがあります。
このような考えが出現する原因は、脳内の化学物質の伝達の障害によって起こると言われています。
思春期、青年期に発症することが多く、40歳くらいまでに発症しやすい病気です。他者とのコミュニケーションがうまくとれなくなってしまうため、社会生活に支障が生じることも珍しくありません。病気が慢性状態になると外出を避けるようになってしまうことも多いので、早めに気がついて、早めに治療を開始することで症状の改善が見込める疾患です。
1-2. どうして統合失調症になってしまうの?
原因はまだ特定されていませんが、病気になりやすい素因とストレスが重なって発症すると考えられています。
現在のところ原因はまだ特定されていませんが、病気になりやすい素因とストレスがあわさって発病するという考えが一般的です。病気になりやすい素因といわれている仮説としては、遺伝の要因(遺伝的な要因はあるようですが、遺伝子の特定まではできていません。
一般の発症率は1%ですが、一卵性双生児では40%です)、環境要因(妊娠中の母体の感染、出生時の障害などの可能性)、脳がストレスを受けやすく発症要因となることなどが挙げられます。これらのことが複合的に組み合わさって発症するとも言われています。
1-3. 「育て方が悪かったから」発症するのか?
統合失調症は育て方が原因で起こる病気ではないことが立証されています。
過去の研究から、統合失調症は育て方が原因で起こる病気ではないことが立証されているので、両親は自分を責める必要はありません。しかし、発症した後に関しては、家族の接し方が病状の回復に影響することが分かっているので、むしろ発症してからの対応法を学ぶことが大変重要です。
患者さんを心配するあまり、つい症状の部分を責めたり、極端な考えに振り回されたりすると、かえって本人の調子を崩すこともあります。
1-4. 統合失調症は「脳の病気」
統合失調症は「こころの病気」ではなく、脳内のドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れて起こる「脳の病気」です。
統合失調症は「こころの病気」ではなく「脳の病気」です。現在の研究では、脳の機能障害ということがわかってきています。脳内ではドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が作られていますが、その神経伝達物質が何らかの原因で多すぎたり少なすぎたりすることで、様々な症状が出現すると言われています。
ドーパミンが多すぎると神経過敏となり、幻覚や妄想が出現します。この場合はドーパミンの働きを抑える薬を使うことで症状が改善されます。このように脳内の神経伝達物質に関する症状であるため、脳の病気と考えられています。
統合失調症に限らず、精神疾患はストレスが発症や再発に大きな影響を与えることがよく知られています。ストレスがかかったときに、それに耐えられる閾値は人によって異なり、ストレスの影響を受けやすい人は、大きなストレスがかかったときに精神疾患を発症しやすいといわれています。そのため、ストレスをためない日常生活というのも大変重要です。
1-5. 症状について
症状は、幻覚・妄想などの「陽性症状」と、意欲低下や引きこもりなどの「陰性症状」に大きく分けられます。
統合失調症の症状は、大きく分けて「陽性症状」と「陰性症状」に分けられます。陽性症状は幻覚・妄想など、通常の生活ではないはずの症状で、病気であることがわかりやすいため、発症していることに気がつきやすく、周囲の人を巻き込むこともあります。
陰性症状は意欲の低下、表情の乏しさ、引きこもりなど、活動性が低下していく症状です。統合失調症のごく初期には、陽性症状がなく陰性症状のみの場合もあり、うつ病との違いがわからない場合もあります。
- 「何かが起きている」という「ただならぬ雰囲気」を感じる
- 「聞こえないはずの声」が聞こえてくる(幻聴)
- 「誰かに何かをされている」感じがする(妄想)
- 考えがまとまらない感じがする
- やる気がなくなって引きこもってしまう
周囲の人だけでなく、本人自身もそのような体験で恐怖感や不安感を感じているので、治療によって症状を改善させることが望ましいといえます。
1-6. 治療について
治療は「お薬」と「リハビリ」の両輪で行うことが効果的です。
精神科の医療機関には、入院施設やリハビリ施設をもつ精神科専門病院、通いやすい近くのクリニック、身体の病気を持っている場合に適した総合病院の精神科などがあります。診察を受ける際には、家族が付き添うことが大切です。
本人ではうまく説明できないことも多く、家族から見た様子は大変重要な情報となります。子供時代の様子を聞かれることも多いので、特徴的なエピソードをまとめておくとよいでしょう。
治療は「お薬」と「リハビリ」の両輪で行われます。お薬は妄想・幻覚など生活に支障がでる症状を改善し、リハビリは日常生活を規則正しく整え、人との関わり方を学び、傷ついた自尊心を回復させ、体力をつけ、頭の体操をし、自分の病気について学び、仕事の訓練を行うことなどが含まれ、地域の生活訓練や就労移行などもあります。どちらか一方だけでなく、お薬もリハビリも両方行うことが効果的です。
1-7. 薬は怖いものではありません
お薬は脳内の神経伝達物質の働きを調整し、苦しい症状を和らげてくれるものです。
お薬には怖いというイメージがありますが、本人が感じている苦しい症状を和らげる作用があります。身体の病気と同じように脳の病気なので、お薬は効果的です。統合失調症は、ドーパミン・セロトニンといった脳内の神経伝達物質の働きがうまくいかないことが原因で引き起こされるため、お薬は出過ぎていたら働きを抑制し、不足していたら補充するといった調整をしてくれます。
副作用がでたら医師に正直に相談するとよいでしょう。
薬は一生のみ続けなければならないのでしょうか。症状がよくなってきたら、薬を減らしていくこともあります。しかし、薬をやめることで症状が悪化することも多いので、その場合は薬のおかげで症状が安定していると考え、継続します。適量の薬を飲み続けるということも、生活の安定のために必要な場合があります。
1-8. リハビリについて
症状が安定したら、デイケアや地域の就労支援など、自分に合ったリハビリの場を利用するとスムーズに社会復帰しやすくなります。
統合失調症になると学校や仕事を一時的に中断しなければならないこともあります。症状が安定したら、社会復帰のためリハビリを利用するとスムーズです。病院であればデイケアがあり、規則正しい生活リズムを整え、活動を通じて集中力を高め、対人関係を築く練習をし、家族と適切な距離をとってストレスを軽減することができます。
地域の中にもいろいろなリハビリできる場所があります。作業料がもらえる就労継続支援(A型・B型)、通所の生活訓練施設、就労支援事業などがあり、使い分けながら自分にあった居場所を探すとよいでしょう。ステップアップしていく人もいます。
1-9. 家族はどのように接したらよいのか?
家族の接し方は病状の回復に影響するため、責めすぎず・保護しすぎず、本人の気持ちに寄り添う対応が望まれます。
症状の回復には、身近な家族の接し方も重要です。対応によっては再発を招くこともあります。よくあるパターンとして、一部の症状を責めたり、必要以上に厳しく接するタイプ(「お前は甘えている!」「ダラダラするな!」など)と、逆に極端に保護的になって何でもしてあげるタイプ(病気に巻き込まれて自分でできることも過剰に世話をする)があります。
良い対応としては、まず家族自身がどっしりと落ち着くこと、病気の症状を理解すること(医師に話を聞いたり、病気の本を読む)、本人の苦しい気持ちを「苦しんだねー」と言って理解すること、本人ができることには手を出さず本人のやり方を尊重すること、そしてほめ上手になる(ありがとうをうまく活用する)ことなどが挙げられます。
1-10. 受診をためらう場合や、幻覚・妄想への対応
本人が受診をためらう場合は無理に連れて行こうとせず、「困っていること」の改善に協力したいという気持ちを伝えることが大切です。
身近にいる人が本人を病院に連れて行こうとしても、どうしても行きたがらないというケースも結構多くあります。その背景には、自分が病気という自覚がないこと、精神疾患への恐れ、精神科医療への理解が不十分であることなどが考えられます。
無理やり連れて行くというより、本人の「困っていること」(眠れない、頭が重い、以前できていたことができなくなったなど)を改善するために協力したいという気持ちを伝えることが大切です。家族だけが先に受診しておくケースもあり、事前に本人や家族が困っていることを医療機関に相談しておくとスムーズにいくこともあります。医療機関だけでなく、保健所や支援センターなどに相談しながらタイミングをみておくことも必要です。
幻覚や妄想は本人にとってはつらいものですが、周囲の人からすると理解しづらい症状です。幻覚も妄想も周囲の人には見えたりしませんが、本人にとっては「実態のあるもの」なので、周囲の人が訂正することは難しいものです。幻覚や妄想はほとんどの場合不快なものなので、本人がつらい思いをしていることを理解してあげましょう。本人の気持ちに寄り添いながら症状の可能性であることを理解してもらい、医師に対処法を聞いてみるように促したり、正体不明の声の対応法を勉強してみるように促すのもよいでしょう。「壁の向こうにだれかが潜んでいる」といった訴えには、一緒に壁の向こうに行ってみて誰もいないことを確認することも有効です。
- 音楽を聞く、会話する、ラジオを聞く、シャワーを浴びる
- お薬を飲んで一休みする
このように幻覚から遠ざかれる方法を探し、自分に合った対処法を見つけてみるとよいでしょう。
出典・参考文献
「統合失調症 あなたはどう答えますか?」
2. 薬物治療ガイド
2-1. このガイドについて
このガイドは、統合失調症薬物治療ガイドラインの内容を患者さん・ご家族・支援者向けにわかりやすく解説したものです。
このガイドは、日本神経精神薬理学会が専門家向けに作成した「統合失調症薬物治療ガイドライン」(2015年)を、患者さんやご家族、支援者にも読みやすいようかみ砕いて解説したもので、インターネット上で公開されています。対象は「統合失調症」という診断を受けた方に限られており、それ以外の診断名がついている場合は想定されていない点に注意が必要です。
あくまで薬物治療について解説したガイドですが、統合失調症の治療は薬だけで完結するものではなく、心理社会的な支援や福祉との連携もあわせて重要であるという前提のもとに書かれています。「症状が良くなったから薬をやめたい」「量が多い気がする」「飲み薬と注射、どちらがよいのか」「なかなか薬が効かないときはどうすればよいか」といった、よくある疑問に対して、これまでの研究結果をもとに答える形式でまとめられています。専門的な内容ではありますが、関心のある方は目を通してみる価値があります。
2-2. 治療を始めたばかりの方への薬物療法
初発の精神病性障害には、副作用の少ない第二世代抗精神病薬を少量から開始し、2〜4週間かけて効果を判定するのが基本です。
初めて幻覚や妄想などの症状が現れた場合(これを「初発精神病性障害」と呼びます。統合失調症そのものと診断が確定する前の段階も含みます)には、抗精神病薬による治療が行われます。使用する薬剤としては、比較的新しいタイプである第二世代(非定型)抗精神病薬が第一選択とされています。
古いタイプの第一世代(定型)抗精神病薬と比較した研究をみると、治療開始から13週以内の短い期間では第二世代のほうが治療を続けられる割合が高く、24週から96週という長い期間でみても、再発が少なく、副作用で薬をやめてしまう人の割合も低いという結果が出ています。ただし第二世代の中でどの薬を選ぶべきかについては、まだ十分なデータが揃っていません。
用量については、多い量から始めるのではなく、少ない量からスタートし、2〜4週間ほど様子をみながら調整していくのが基本です。初めて症状が出た人は、慢性期に入った方に比べて薬が効きやすく、副作用も出やすい傾向があるため、少量から始めることが望ましいとされています。実際のデータでは、治療開始2週間の時点で3人に1人程度に効果が現れ、4週間経つころには半数以上の方に改善がみられています。逆に、量が足りず効果が乏しい場合は、4週間を待たずに副作用に注意しながら増やすこともあります。
いったん症状が落ち着いても、薬をやめてしまうとぶり返すことがあるため、安定した状態を保てるだけの量(維持量)を続けて飲むことが必要です。なお、こうした初めての症状が6か月以上続いた場合に、あらためて「統合失調症」という診断がつきます。
2-3. どのくらいの期間、薬を続ける必要があるか
初発では少なくとも1年、維持期の統合失調症では長期的な服薬継続が、再発予防のために推奨されています。
初めて症状が出た場合、再発を防ぐという観点から、抗精神病薬は最低でも1年間は服用を続けることが勧められています。1年間という期間が目安とされているのは、そこまでの継続であれば再発予防に効果があるとする研究の裏付けがあることに加え、初発の精神病症状が必ずしもそのまま統合失調症の診断に至るとは限らないためです。
統合失調症の診断が確定した場合は、できる限り長く服薬を続けることが望ましいとされています。実際、発症から2年以内に自己判断で服薬をやめてしまった場合、1年後には約8割、2年後にはほぼ全員が症状の再燃を経験しているというデータもあります。
症状が安定してきた維持期においても、毎日決まった量を規則正しく飲み続ける方法がもっとも望ましいとされています。副作用を軽くする目的で服薬しない日を作るなど、間隔をあけて飲む方法も過去に試みられてきましたが、規則正しく毎日服用したほうが、再発や再入院が少なく済むことがわかっており、こちらが基本の飲み方として推奨されています。
2-4. 薬を減らすこと・薬の選び方
減量が有用かどうかは症状や副作用次第で一概には言えず、再発予防の観点では第二世代抗精神病薬が優先されます。
安定期に入った統合失調症で、薬の量を減らすことがよいかどうかは、現在のところはっきりとした結論が出ていません。量が多いほど副作用のリスクは高まる一方、減らせば症状がぶり返す危険も出てくるため、その人の症状や副作用の程度をみながら、個別に判断していく必要があります。
急性期に複数の薬を併用していた場合には、症状が落ち着いた段階で種類を絞っていくことも多く行われています。
薬剤の選び方については、維持期であれば第一世代(定型)抗精神病薬よりも第二世代(非定型)抗精神病薬のほうが、再発予防や治療の継続のしやすさの面で優れているとされています。もっとも、この差はそれほど大きなものではありません。実際、両者を服用した人を比較した研究では、第二世代のほうが薬をやめずに続けられる人がわずかに多いという程度の差にとどまっています。第二世代の中でどの薬がより優れているかについては、比較のためのデータがまだ十分でなく、はっきりしたことは言えません。
2-5. 飲み薬と注射(持効性注射剤)の違い
月1回の注射で効果が持続する持効性注射剤(LAI)は、飲み忘れによる再発を防ぎやすい治療法です。
毎日の内服の代わりに、月に1回程度(薬剤により2〜4週に1回)筋肉注射を受けることで効果が持続するタイプの薬もあります。これは持効性注射剤(LAI:Long Acting Injectionの略。「デポ剤」と呼ばれることもあります)と呼ばれ、肩や腰などの筋肉に注射し、体内でゆっくり吸収されることで効果が続きます。
服薬が不規則になりがちで、それが再発の一因になっている場合には、この持効性注射剤の利用が勧められます。主治医からの提案に加えて、本人が希望する場合に導入されることが一般的です。研究では、注射薬は飲み忘れの心配がないため、飲み薬に比べて再発が少なく、入院に至らずに済むケースが多いと報告されています。もっとも、もともときちんと服薬できている人の場合は、注射に切り替えても効果や副作用に大きな違いはみられません。また、飲み薬では血中の薬の濃度が安定しにくかった人が、注射剤に変更したことで濃度が安定し、調子がよくなったという例もあります。
2-6. 症状が再び悪化したときの対応
症状が悪化した際は、まず服薬状況を確認したうえで、増量や変更を主治医と相談しながら検討します。
いったん落ち着いていた症状が再び悪化した場合、まず確認すべきなのは、それまでの薬の量や服用期間が十分であったか、そしてきちんと服薬できていたかどうかです。自己判断で服薬をやめていたことが悪化の原因であれば、まずは服薬を再開することが優先されます。
この場合、これまでの効き目や副作用の経験をもとに、どの薬を使うか決めていきます。
すでに服薬を続けていて量にまだ余裕があり、副作用も許容できる範囲であれば、別の薬に切り替えるよりも、今の薬を増やすほうが望ましいとされています。目安としては、服薬(または増量)を再開して2週間経っても症状の改善がほとんどみられない場合、その後も効果が出にくいことが多いとされます。増量後2〜4週間は様子をみて、それでも反応がなければ8週間を目安に薬の変更を検討します。なお、どの薬に切り替えるのがもっとも効果的かについては、薬剤同士を比較した十分なデータがなく、主治医と相談しながら決めていくことになります。
2-7. 認知機能への影響と対策
適切な用量の第二世代抗精神病薬を用い、抗コリン薬やベンゾジアゼピン系薬剤を極力控えることが、認知機能の維持に役立ちます。
認知機能とは、物事を記憶したり、段取りを考えて実行したりする力のことで、日常生活を送るうえで欠かせない能力です。統合失調症では、およそ半数の方にこうした認知機能の低下がみられるとされています。認知機能の低下を防ぐには、第二世代抗精神病薬を適切な量で使うことに加え、副作用止めとして使われる抗コリン薬や、不安・不眠に使われるベンゾジアゼピン系の薬を、できるだけ使わないようにすることが強く勧められています。
第二世代抗精神病薬には認知機能を改善する働きもあるとされますが、その効果はそれほど大きくなく、実感しにくいこともあります。薬の量が多すぎると、かえって認知機能を悪化させることがあるため、量を見直す必要が生じる場合もありますが、減らしすぎると今度は症状の再発リスクが高まるため注意が必要です。抗コリン薬やベンゾジアゼピン系の薬は、認知機能への悪影響が知られているため、必要な期間だけ一時的に使うにとどめるのが基本です。ただし、急にやめると離脱症状が出ることがあるため、やめるときは少しずつ減らしていく必要があります。
2-8. 体重増加への対処法
体重増加がみられる場合は薬の変更を慎重に検討しつつ、食事と運動など生活習慣の見直しも重要です。
抗精神病薬の中には、体重が増えやすいという副作用を持つものがあります。体重増加を理由に薬を変更・中止する場合は、それによって精神症状が悪化してしまう危険性があることを十分に踏まえておく必要があります。
たとえばオランザピンで体重増加がみられた場合、アリピプラゾールやリスペリドンへの切り替えで体重の増加を抑えられることがありますが、オランザピンは症状を抑える効果が強い薬でもあるため、変更によって統合失調症の症状が再び悪化してしまうリスクにも注意が必要です。
体重増加は、特に第二世代抗精神病薬でよくみられる副作用の一つで、放っておくと糖尿病や心臓の病気につながり、寿命を縮める可能性もあるため、きちんと対処することが大切です。ただし、体重増加は薬の副作用だけが原因とは限らず、食べ過ぎや運動不足が重なっている場合も多いため、生活習慣そのものを見直すことも重要です。食事面では、脂質や糖質を摂りすぎないようにし、1日3食を規則正しく、間食は控えめにすることを心がけましょう。必要に応じて病院で栄養指導を受けることもできます。運動については、なるべく歩く、階段を使うなど、日常生活の中でできることから取り入れていくとよいでしょう。
出典・参考文献
「統合失調症薬物治療ガイド−患者さん・ご家族・支援者のために」
3. 幻聴(正体不明の声)への対処法
今回は書籍『正体不明の声に対処する10のエッセンス』をご紹介します。この本は、「まわりに誰もいないのに、誰かの声が聞こえてくる」という現象を「正体不明の声」と呼び、その対処法について解説したものです。
たとえば、知らない人が自分について話している声が聞こえたり、誰もいないのに自分の噂話が聞こえたりするなど、自分にだけ繰り返し聞こえてくる「正体不明の声」を主なテーマとしており、インターネットでは無料のダイジェスト版も公開されているため、誰でも読むことができます。
本書ではこの繰り返し聞こえる声を「正体不明の声」と呼んでおり、精神科ではこうした相談を受けることもしばしばあります。「正体不明の声」は精神科の治療によって改善することもありますが、治療の過程で正体不明の声についての知識や対処法を持っておくと、日常生活が送りやすくなります。本書では、どのような場合に「正体不明の声」が現れるのか、声の正体は何か、そのままにしておくとどのような悪影響が見られるのか、そしてどのように対処すればよいのかが解説されています。
3-1. 幻聴が聞こえやすい条件
幻聴は「不安・孤立・過労・不眠」の4条件が重なったときに聞こえやすくなります。
幻聴は、「不安・孤立・過労・不眠」という4つの条件が重なったときに出現しやすくなるといわれています。たとえば、遭難したときや無菌室で治療を受けているときなど、極限的な状況でも幻聴が聞こえてくることがあると報告されています。
こうした条件は、日常のさまざまな出来事のなかにも潜んでいます。受験、入学、卒業、失恋、人間関係のトラブルや破綻、就職、失業、結婚、出産など、生活の節目にはストレスがつきものです。新しい環境に飛び込むとき、大きな責任を背負うとき、これまでにない挑戦をするとき、心配事を抱えたまま過ごさなければならないとき、そして実際に失敗して傷ついたとき――こうした場面が重なると、現代生活にはストレスがあふれており、「不安・孤立・過労・不眠」の状態になりやすいといえます。
精神科では、この「正体不明の声」を「幻聴」と呼びます。ただし、幻聴が聞こえたからといって、必ずしも精神科での治療が必要になるとは限りません。精神科で治療の対象となるのは、その悪影響によって日常生活に支障が出ている場合です。
3-2. 幻聴のタイプ
幻聴には、周りに人がいない場合・いる場合や、特定の場所・音と結びついて聞こえる場合など、いくつかのタイプがあります。
幻聴にはいくつかのタイプがあります。
- 特定の場面で出やすい声:電話をしているとき、料理をしているときなど、決まったシチュエーションで聞こえてくることがあります。
- 会話が成立するように感じる声:話しかけると、まるで返事が返ってくるように感じることがあります。
- すぐそばにいる人の声のように聞こえる声:実際に目の前にいる人が話しているように感じても、その人は何も言っていません。
- 誰もいない場所から聞こえてくる声:はっきり言葉として聞き取れることもあれば、内容がよく分からないこともあります。
- 生活音に紛れて聞こえる声:テレビやラジオの音などと同時に聞こえてくるため、区別がつきにくいことがあります。
3-3. 幻聴のルーツ
幻聴の正体は「自分自身の気持ちや考え」であり、実際の他人の声ではありません。
幻聴のルーツは、「自分自身の気持ちや考え」にあります。幻聴として聞こえてくる声は、基本的に他人の声であることが多く、老若男女さまざまで、知人の声が聞こえることもありますが、知らない人の声であることのほうが多いとされています。
声の主は一人の場合もあれば、複数の場合もあります。
他人の声のように聞こえるので、実際に誰かが話していると感じるのは無理もないことです。しかし、幻聴のルーツはあくまで「自分自身の気持ちや考え」であるということを認識しておくことが大切です。幻聴は、「不安・孤立・過労・不眠」が重なったときに、自分の気持ちや考えの一部が声として聞こえてくるものであり、他人の声のように聞こえても、実際の他人の声ではありません。この「幻聴」と「実際の他人の声」を区別することが、とても重要です。
幻聴のルーツになりやすい気持ちや考えとしては、後悔や自分を責める気持ち、ある人に感心する一方で心の底に感じる嫉妬のように自分でも気づきにくいネガティブな感情、相手にどう思われているか気になる気持ちなどが挙げられます。精神科では、こうした幻聴に対して治療を行っていますが、幻聴が聞こえたからといって必ずしも治療が必要というわけではなく、それによって日常生活に支障が出ている場合に治療の対象となります。
3-4. 治療について
幻聴の治療では、生活面の工夫・家族の理解・薬物療法・受け止め方の工夫を組み合わせて行います。
幻聴の治療では、いくつかの取り組みが並行して行われます。日々の生活の中で「不安・孤立・過労・不眠」を溜め込まないよう工夫すること、家族に病気への理解と協力を求めること、そして薬による治療を受けながら、幻聴そのものへの受け止め方を少しずつ見直していくことです(薬にはさまざまな特徴を持つものが多数用意されています)。
ここまで、幻聴のタイプ(周りに人がいる場合・いない場合、特定の場面、他の音と一緒に聞こえる場合など)、そのルーツが自分自身の気持ちや考えにあり実際の他人の声との区別が重要であること、そして治療では生活面の工夫や家族の援助、薬物療法、受け止め方の工夫といった対応が行われることを紹介してきました。
3-5. 幻聴がもたらす影響
幻聴を実際の他人の声だと受け止めてしまうと、個人情報漏洩体験や被害妄想など、日常生活への悪影響につながることがあります。
幻聴を「実際の他人の声」として受け止めてしまうと、さまざまな混乱が生じ、日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。幻聴の内容は荒唐無稽であることが多いため、それをテレパシーや電波によるものだと思い込んで行動してしまうと、周囲にも影響が及んでしまうことがあります。
たとえば、幻聴のルーツは自分自身の気持ちや考えにあるため、自分に関する声が聞こえたり、自分しか知らないはずのことが他人の声として聞こえてきたりします。そのため、「自分の個人情報が漏れている」という体験に発展することがあります。テレビの音と一緒に声が聞こえることをきっかけに、テレビの内容が自分に関係あるように感じられることもあります。
また、いろいろな偶然の出来事が自分と関係があるように感じられ、意味を持って見えてしまうこともあります。誰かの咳払いや視線をそらす仕草、自分と同じ方向に歩く人など、偶然の出来事を自分と関連づけて、「見張られているのではないか」「後をつけられているのではないか」という妄想につながることもあります。
3-6. 治療の進め方
治療は本人・家族・精神科スタッフが協力し、「不安・孤立・過労・不眠」の悪循環を断ち切ることを目指して進めます。
幻聴・妄想の治療では、まず悪循環を断ち切ることが大切です。幻聴は「不安・孤立・過労・不眠」が要因となっていることが多いため、精神科で治療を受けながら、これらの要因を取り除いていくことも重要になります。
治療は、本人・家族・精神科スタッフが協力して進めていきます。本人は生活の送り方や幻聴の受け止め方を工夫し、服薬に取り組みます。家族は病気への理解と援助を担い、精神科スタッフは治療についてのアドバイスや投薬、リハビリを担当します。医師や看護師だけでなく、デイケアや地域の事業所、相談員などとのつながりも活用しながら、こうした役割分担のもとで治療を進めていきます。
3-7. 幻聴との向き合い方
「幻聴は実際の他人の声ではない」と理解し、それを常に思い出せるようになることが、幻聴とうまく付き合う鍵になります。
幻聴と上手に付き合うためには、「幻聴は実際の他人の声ではない」ということを理解し、そのことを常に思い出すようにすることが大切です。幻聴は実際に他人の声として聞こえてくるため、最初のうちはそのように思うことがなかなか信じられないという方も多くいます。
しかし、幻聴は「他人の声」として聞こえてはいても、自分自身の気持ちや考えをルーツとして脳が作り出した声であることを、常に理解しておく必要があります。
幻聴とうまく付き合うことができるようになると、幻聴に励まされたり、自分の心の一面を理解できたりすることもあります。内容の良い幻聴であれば、寂しいときに聞こえてくると気が紛れるという人もいます。幻聴は他人の声ではないと分かってくると、「自分の情報が漏れているのでは」「考えを見透かされているのでは」といった不安が和らぎ、もともと持っていた「自分の気持ちは自分の中にとどまっている」という安心感を取り戻せます。
3-8. 幻聴と上手に付き合うための工夫
声の内容を気にかけず受け流すために、音楽を聴く、体を動かすなど、自分に合った気そらしの方法を見つけることが役立ちます。
幻聴には反応しすぎないことが基本です。声に言い返そうとすると、かえって強くなってしまうことがあります。まずはいったん考えるのをやめてみて、声を気にかけないための工夫を試してみましょう。
具体的には、次のような方法があります。
- 好きな音楽をかけて過ごす
- 体を動かす(散歩やストレッチ、軽い運動など)
- 家事に没頭する(掃除や洗いもの、料理など)
- 温かい飲み物を飲んでひと息つく
- お気に入りの服に着替えて気分を変える
- ペットと触れ合う、または植物の世話をする
- 写真やアルバムを眺めて別のことを考える
- 家族や周りの人に、静かに過ごしたいことを伝えておく
- 最近あった良い出来事を思い出す
これら以外にも、自分に合った方法があるはずですので、いろいろと探してみるとよいでしょう。
出典・参考文献
「幻覚妄想体験の治療ガイド 正体不明の声 -対処するための10のエッセンス-」
4. 肥満・糖尿病の予防
4-1. 統合失調症と肥満・糖尿病の予防について
統合失調症の患者さんは肥満やメタボリックシンドロームの割合が一般より高く、その予防が心身の健康維持に重要です。
2020年5月に日本精神神経学会、日本糖尿病学会、日本肥満学会が監修した「統合失調症に合併する肥満・糖尿病の予防ガイド」が発表されましたので、今回はその内容をご紹介します。精神障害をかかえる方のリカバリーを考える上で、体の健康が維持されることは必要不可欠です。
海外のデータによると、統合失調症では虚血性心疾患などの心臓血管疾患を原因とする死亡率が一般人口と比べて比較的高いことが報告されています。その要因として考えられることとして、肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームがあげられます。
肥満とはBMI25以上(170cmで72kg)、メタボリックシンドロームとは、ウエスト周囲が男性85cm以上、女性90cm以上で、高血圧・高脂血症・高血糖をもつものです。わが国の調査によれば、通院中の統合失調症患者さんのうち約半数が肥満、3人に1人がメタボリックシンドロームに該当するというデータがあります。一般の人と比べても高い割合であることから、日頃から肥満や糖尿病への意識を持つことが勧められます。
4-2. 肥満とは
肥満はBMI25以上と定義され、統合失調症の患者さんはBMI25以上の割合がやや高い傾向にあります。
肥満とは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値であるBMIが25以上の状態を指します(150cmで56kg、160cmで64kg、170cmで72kg、180cmで81kgが目安)。肥満そのものがすぐに治療の対象になるわけではありませんが、糖尿病や脂質異常症をはじめとした様々な病気につながりやすいことが分かっています。
統合失調症の患者さんを対象とした調査では、BMI25以上30未満の方が23.5%、BMI30以上の方が6.7%という結果が出ており、一般の方(それぞれ20.6%、4.1%)と比べるとやや高い水準です。BMIが25を超えると、高血圧や高脂血症のリスクが約2倍に高まるとされ、健康面への影響には注意が必要です。
4-3. 肥満になると何が問題なのか
肥満は糖尿病や高血圧など様々な健康障害につながるほか、抗精神病薬の種類によっては体重増加の副作用が出やすいことも知られています。
肥満によって、減量が必要となるほどの健康障害が起こることがあります。具体的には、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症(痛風)、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脂肪肝、月経異常、不妊、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症、肥満関連腎臓病などが挙げられます。
統合失調症の患者さんを対象とした国内調査では、外来通院中の方の約半数、入院中の方の4人に1人程度がBMI25以上の肥満に該当しており、特に外来に通う慢性期の患者さんで肥満対策のニーズが高いことがうかがえます。
統合失調症治療薬に使用される抗精神病薬では、特に第二世代と呼ばれる薬剤に体重増加の報告が多くみられます。体重増加しやすい薬剤があり、それらを体重増加リスクの少ない薬剤に変更することで改善することが報告されています。また、使用する抗精神病薬の種類が増えると体重増加のリスクも上がるため、なるべくシンプルな処方が望ましいとされています。
4-4. 肥満に対する治療
肥満症の治療は、現実的な目標を設定した栄養指導と運動療法が中心です。
減量に取り組む際は、無理のない現実的な目標を立てることが大切です。必ずしも標準体重(BMI22)まで痩せる必要はなく、肥満にともなう健康上の問題が和らぐことを目指すのがポイントです。栄養指導には一定の効果が確認されています。
統合失調症の患者さんを対象にした国内の研究では、月1回程度の栄養士による指導を1年間続けたグループで、体重が平均3kg程度減少したと報告されています。指導の内容としては、間食を控えて3食を規則正しくとるという基本のほか、日々の活動量に見合ったエネルギー摂取量の調整や、外食・嗜好品との付き合い方の工夫などが含まれます。運動も、体重の変化が小さくても血圧や血糖値、コレステロール値の改善、糖尿病の予防につながるとされているため、外食や嗜好品のカロリー・糖質を意識することとあわせて取り組むとよいでしょう。
4-5. 減量のための具体的な食事方法
推定エネルギー必要量よりやや少なく食べることが減量の基本で、腹八分目や野菜を先に食べるなどの工夫が有効です。
体重を減量するためには、推定エネルギー必要量よりも摂取エネルギーを少なくする必要があります。推定エネルギー必要量から230kcalを減らすと、月1kgの体重減少となります(ご飯茶碗1杯分、食パン1枚分に相当)。
推定エネルギー必要量は年齢・性別・身長・活動量で決まるため、「推定エネルギー必要量・計算」で検索するとインターネットで計算できます。食事を改善して、運動でエネルギーを消費するようにしましょう。
- 腹八分目、脂質は控えめに(揚げ物、肉の脂身、バターを避ける)
- 野菜から食べて、ご飯を最後にする
- 食物繊維を多く含む食品を増やす(野菜、海藻、きのこなど)
- 朝食、昼食、夕食を規則正しく、ゆっくりよくかんで食べる
- ご飯は200g以下、白米から玄米や雑穀入りご飯、全粒粉パンなどへ切り替える
- 汁物はだしをとって減塩する
- 糖質を多く含む食品の間食を避ける
4-6. 糖尿病について
糖尿病は血糖を下げるインスリンの働きが不足して起こる病気で、生活習慣が関わる2型が全体の約9割を占めます。
糖尿病は、血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌不足や、インスリンが効きにくくなることによって、血糖値の高い状態が慢性的に続いてしまう病気です。血糖値が急激かつ大幅に上がると、糖尿病性ケトアシドーシスという命に関わる状態を招くことがあります。
また、高血糖の状態が何年も続くと、神経障害や網膜症、腎症といった細い血管の障害や、全身の動脈硬化につながります。さらに、認知症や感染症、様々ながんのリスクを高めることも分かっています。
糖尿病には1型と2型があります。1型は、膵臓でインスリンを作る細胞が壊れてしまうタイプで、自己免疫が関係しているとされ、生活習慣とはあまり関係がありません。一方、糖尿病全体のおよそ9割を占める2型は、インスリンが効きにくくなりやすい遺伝的な体質に、食べ過ぎ・運動不足・肥満・ストレスといった生活習慣や加齢が重なって発症すると考えられています。症状としては、血糖値が高くなることで、喉が渇く、水をよく飲む、尿の回数が増える、体重が減る、だるさを感じる、感染症にかかりやすくなるといったことが起こり得ます。診断・治療は内科で行い、軽度であれば食事療法だけで様子を見ることも多く、症状が進んだ場合に薬物療法、重度になるとインスリン治療が検討されます。重症化させないことが何より大切です。
4-7. 運動習慣の大切さ
適度な有酸素運動と筋トレを続けることで、インスリンの働きが改善し血糖値が安定しやすくなります。
適正な食習慣と適量の運動習慣を身につけることが推奨されています。運動を行うと、肝臓や筋肉に貯蔵されているブドウ糖や脂肪が消費されやすくなり、日常的に運動を続けるとインスリン感受性が高まります。その結果、インスリンの働きが改善し、血糖値が下がって安定しやすくなります。
運動は、息が少し弾む程度のウォーキングや水泳などの有酸素運動を、できれば毎日、少なくとも週に3〜5日は行うのがおすすめです。歩数の目安としては1日1万歩程度、また週に2〜3回はスクワットや腹筋などの筋トレも取り入れると、より効果的です。糖尿病であれば、有酸素運動と筋トレを両方行うと血糖値を下げる効果がより高まります。太ももは体内で最大の筋肉量が多い部位であるため、太ももの筋肉を刺激するウォーキングやスクワットなどの軽めの運動を続けることが推奨されています。高齢の方は、椅子に座ったままの足上げや、机に手をついての片足立ち、かかと上げなどをやるとよいでしょう。忙しい方は、まずは立っている時間を増やすだけでもやってみましょう。
4-8. 糖尿病の方への食事のヒント
1日3食を規則正しく、野菜から食べる・よく噛むなど、血糖値の急上昇を防ぐ食べ方の工夫が役立ちます。
ダイエットのために1日2食にすることはおすすめできません。食事と食事の間隔が長くなり、空腹の時間が長く続くと、体がエネルギー不足に備えて脂肪を溜め込みやすくなり、体が飢餓状態と判断して基礎代謝も低下し、太りやすい体質となってしまいます。
1日3食規則正しい食事が望ましいでしょう。1日3食の献立を考えるコツは、1汁2〜3菜、汁物、主菜1品、副菜1〜2品、主食のご飯という構成です。主菜は肉や魚介類、卵、豆腐などのタンパク質、副菜は野菜や海藻、きのこなどビタミン、ミネラル、食物繊維を意識するとよいでしょう。
糖質の多い主食のとり方にも工夫が必要です。血糖値の上昇を招く糖質は、ごはんやパン、麺などの主食に多く含まれています。主食を取るときには、白い精製された米やパンではなく、玄米、雑穀米や全粒粉パンなど食物繊維の豊富な茶色の炭水化物を適量摂取するとよいでしょう。ラーメン、そば、うどんなどの麺類を食べるときには、野菜や海藻入りのもの、サラダをプラスして最初に野菜を食べるようにするとよいでしょう。また、早食いをやめ、よく噛んで15分以上かけて食べることも大切です。無意識に早食いしてしまう人は、噛んでいるときは箸をおいて飲み込んでから次の食べ物を口にするとよいでしょう。
食物繊維の多い野菜などを食事の最初にとると、その後にとるご飯や麺類の糖質の吸収を緩やかにして、食後血糖値の急激な上昇を防ぐ働きがあります。サラダや汁物の具に野菜をたっぷり使って積極的に摂取し、最初に野菜、最後にご飯などの主食を食べるようにしましょう。イモ類やかぼちゃ、れんこんなどは糖質を多く含むので、野菜とみなさず主食と同様に最後に食べるとよいでしょう。最近では、ヨーグルトや納豆、みそ、キムチなどの発酵食品は、腸内で食物繊維を餌にして善玉菌を増やし、インスリン分泌を促して血糖の改善に役立つことが研究でわかってきています。摂取しないほうがいい油についても知っておきましょう。脂肪はカロリーが多く体重増加につながりやすいため、脂分は控えたほうがよいのですが、オリーブオイルやごま油などの多価不飽和脂肪酸と呼ばれる油は動脈硬化を予防することがわかっており、こちらに切り替えるほうがよいでしょう。
4-9. まとめ
適切な食事と運動、禁煙・節酒を心がけることが、糖尿病の予防につながります。
糖尿病を防ぐためにできることは、日々の積み重ねです。バランスのよい食事と適度な運動を心がけ、お酒とたばこは控えめにすることが大切で、なかでも食事の見直しは糖尿病予防の要といえます。肥満度と糖尿病の関係は強く、特にアジア人は欧米人に比べて体重が増えると糖尿病を発症しやすいとされています。
お酒については、日本人の場合、痩せ型の男性でも飲酒の習慣や1回あたりの飲酒量が多いと糖尿病のリスクが上がることが分かっています。一方でコーヒーやお茶は糖尿病を防ぐ方向に働く可能性があるとの報告もあります。たばこ(受動喫煙を含む)は糖尿病のリスク因子ですが、禁煙は一時的に体重が増えやすく、その分リスクが上がることもあるため、食事や運動にも気を配りながら取り組むとよいでしょう。運動は量が増えるほどリスクを下げ、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせるとより効果的とされる一方、座っている時間やテレビを見る時間が長いことはリスクを高めます。睡眠は短すぎても長すぎてもリスクが上がり、睡眠の質の低下や昼寝のしすぎにも注意が必要です。
出典・参考文献
「統合失調症に合併する肥満・糖尿病の予防ガイド」
「糖尿病 高血糖・ヘモグロビンA1c・合併症 糖尿病治療の名医が教える最高の治し方大全」
5. よくある質問(Q&A)
5-1. 統合失調症とはどんな病気ですか?
統合失調症は幻覚や妄想を主な症状とする精神疾患で、約100人に1人が発症する決して珍しくない病気です。
統合失調症は幻覚や妄想などを主な症状とする精神疾患です。発症のピークは10代後半から20代にあり、世界的に見てもおおよそ100人に1人がかかる、決して珍しくない病気とされています。現在の研究では発症率0.7%とされ、100人に1人よりは若干低い数値です。
また、男女比は従来1対1と考えられていましたが、現在では1.4対1と若干男性が多い傾向にあり、女性のほうが発症がやや遅い傾向があります。ただし、世間一般での理解や認知は、まだ十分とは言えません。
2001年公開の映画『ビューティフル・マインド』は、統合失調症の闘病を主題とした内容で、アカデミー賞やゴールデングローブ賞など数々の受賞がある名作です。主人公は、1994年にゲーム理論として知られる数学モデルでノーベル経済学賞を受賞した3人の研究者のうちの一人、ジョン・ナッシュ氏であり、統合失調症の闘病生活を続ける半生が描かれています。この映画では大学院生時代に発症した様子が描かれていますが、統合失調症がよく発症する年齢は20代、特に前半にピークがあります。その後、年齢とともに発症の頻度は下がっていき、老年期に症状が出現する場合は認知症など別の疾患の可能性があります。
5-2. どんな症状がありますか?
代表的な症状として、幻覚・妄想・まとまらない会話や行動・意欲低下などの陰性症状があります。
代表的な症状として、幻覚、妄想、まとまらない会話や行動、陰性症状があります。発症前にはうつ状態となることもあり、うつ病から統合失調症へ診断が変わることもあります。
- 幻覚:本来そこにいないはずの人の姿が見えたり(幻視)、誰もいないのに声が聞こえたりする(幻聴)といった体験です。統合失調症では幻視よりも幻聴の方が多くみられ、その内容は誰かが話しかけてくる声や、自分を責めたり攻撃したりしてくる声であることが多く、本人にとっては大変つらい体験となります。病気の初期には自分が病気であることに気づかないため本当のことだと思い、中には幻聴の声に命令されて従って行動することもありますが、治療が進むと自覚できるようになり対処行動をとれるようになります。
- 妄想:誰かに見張られている、何気ない出来事が自分に関係している、誰かが自分に危害を加えてくる、自分のことを誰かが噂しているなど、事実ではないことを思い込む考えです。自分の考えがみんなに知れ渡ってしまう、他人の考えが入ってくる、自分の考えが抜き取られるなど、考えに関する妄想も比較的多くみられます。
- まとまらない会話と行動:言葉が支離滅裂となり、意味不明な会話や行動がみられます。
- 陰性症状:急性期が過ぎて自発性が低下し、意欲低下となった状態です。感情表出が乏しくなり、時には終日臥床状態となることもあります。
5-3. どんな経過をたどりますか?
前駆期・初回エピソード・寛解と再燃・慢性期という経過をたどることが多く、服薬中断が再燃の最大の要因です。
統合失調症の経過は人によって様々ですが、全般的な経過として、前駆期、初回エピソード、寛解と再燃、慢性期に分けて理解することができます。前駆期には、発症数年前から不眠、物音や光に敏感になる、気分が落ち込む、誰かに噂されているような気がするなどの前兆となるサインが出ますが、本人も周りの人も気がつかないケースもあります。
初回エピソードは、主に幻聴や妄想などのはっきりとした症状が現れるエピソードで、本人の苦痛も増え、周囲の人も気づくようになります。
診断された後、数ヶ月の治療を経て幻覚や妄想の勢いがなくなり、その体験に左右された行動もなくなってくる状態を「寛解」と呼びます。入院していた方もこの時期に退院し、自宅療養に移ることが多いです。寛解状態後に症状が再び出ることを「再燃」と呼び、そのリスクを高める最大の要因は服薬中断です。症状寛解後7〜12ヶ月後の再燃率は、内服を継続した場合27%、内服中断の場合で64%との報告があります。急性期エピソードを1回のみ経験する人もいれば、複数回経験する人もおり、薬物療法を続けていても何らかの症状が残存する方も比較的多く、そのような方は慢性期の状態といえます。
5-4. どうして統合失調症になったのでしょうか。子育てが原因ですか?
遺伝的要因や周産期の要因に思春期のストレスが重なって発症すると考えられており、子育ての仕方が原因ではないことが分かっています。
「なぜ自分が」「なぜうちの子が」と、原因を知りたくなるのは自然なことです。統合失調症は、120〜140人に1人程度がかかる、決して特別な病気ではありません。原因については、いくつかの要素が重なって発症すると考えられています。
生まれつきの遺伝的な体質、妊娠中の母体の感染や出産時のトラブルといった要因が土台となり、そこに思春期特有の心理的な負荷が加わることで発症につながるというのが現在の理解です。つまり、生まれる前の段階で神経系の発達に影響する何らかの下地ができ、そこへ成長過程のストレスが重なって発症すると考えられているのです。
統合失調症のなりやすさに関わる遺伝子は100種類を超えるとされていますが、どの組み合わせが発症につながるのかはまだ詳しくわかっていません。一卵性双生児では50%、きょうだいでは10%、おじ・おばでは2〜3%程度、血縁が近いほど発症リスクはやや高まりますが、身内に統合失調症の人がいなくても発症する方は数多くいます。
なお、かつては「育て方が悪かったのではないか」と考えられていた時代もありました。1940年代には、母親の育て方が発症の引き金になるとする説が唱えられ、一時期は広く信じられていましたが、現在この説は否定されています。統合失調症は、脳内でドーパミンという物質が過剰になることで生じる、生物学的な基盤を持つ病気であることがわかっています。
5-5. どのくらい治りますか?
治療を継続すれば約半数が「パーソナル・リカバリー」と呼ばれる自分らしい生活を取り戻せますが、治療を中断すると再発率は大きく上がります。
治るイメージは人によって異なるため、いくつかのパターンをご紹介します。治療を継続した場合、日常生活を通常通り行い、なんらかの社会的役割(福祉的な就労や家庭内家事)が行えるまで回復するケースが約半数あります。
この状態を「パーソナル・リカバリー」といい、つらい症状がなくなり、自分の目標や価値観に即した自分らしい生活ができることを目指す、現在の主流な考え方です。長期的な経過をみると、治療を続けても症状の波が続く方が多数派で、再発と寛解を繰り返しながら少しずつ回復に向かうケースが大半を占めます。再発を経験せずに回復する方も一定数おり、逆に症状が強く残ってしまい、自宅への引きこもりや入院が続くケースも一部にみられます。
一方、治療を継続しない場合、症状が治った後に薬をやめると、治療を中断すると1年後の再発率は70%にのぼることが分かっています。内服を継続することで再発率は30%に抑えられ、さらにリハビリテーション(デイケアや就労継続事業所の通所)を併用することで8%まで減らすことができます。全く治療しない場合、海外での報告では未治療者の2割程度は症状が改善、もしくは部分的な改善がありましたが、残りは症状持続または悪化がみられました。未治療期間が長いと治療抵抗性となるため、パーソナルリカバリーを目指すことが大切です。
5-6. どんな治療法が行われますか?
急性期には抗精神病薬による薬物療法が中心となり、通常2〜4週間程度で症状の改善がみられます。
統合失調症は幻覚や妄想などを主な症状とする病気で、こうした症状が現れたときや悪化したときに治療が始まることが多くあります。急性期とよばれる初回エピソードや再発時では薬物療法が中心となり、統合失調症では『抗精神病薬』と呼ばれる幻覚や妄想を抑える薬を使用します。
個人差はありますが、2〜4週間程度で効果が出現し改善していきます。この時期に、幻聴や妄想が実際の出来事ではなく病気の症状であることが理解できるよう、医療スタッフは働きかけていきます。
統合失調症では脳内神経系でドーパミンが過剰になります。普段私たちの生活で聞こえている音や視覚刺激は、意味がなければ無意識に遮断するような脳の仕組みがありますが、脳内ドーパミンが過剰になると、そのような生活の音や視覚刺激に対して意味があるような感覚に変化すると言われています。例えば換気扇や車が通行する音が自分に向けて誰かが嫌がらせをしていると感じたり、誰かが話しているのを見て自分のことを噂していると考えたり、鳥が飛んでいるのを見て何か重要なサインがあるのではないかと考えたりします。抗精神病薬はドーパミンを抑えることで、これらの症状を改善させる効果があります。
5-7. どうしたら再発予防ができますか?
症状が安定しても自己判断で服薬をやめず、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて継続することが再発予防につながります。
症状が良くなったら病気は治っていると考えて薬をやめたくなるのは、普通のことかもしれません。しかし、症状が安定しても内服を継続しないといけない病気があり、高血圧などと同様に、統合失調症も安定を維持するために内服の継続が必要です。
自己判断で内服を中断する方も多いですが、再発すると仕事が続けられなくなったり、前より治りが悪くなることもあるので注意が必要です。副作用が辛い時や症状がしばらく安定したら、内服減量も可能ですので、医師と相談しながら行いましょう。
急性期後の治療としては、薬物療法だけでなく精神障害リハビリテーションが重要です。薬物療法にリハビリテーションを併用することで再発率が下がることが証明されており、精神科デイケアや就労支援事業所に毎日通所することで、より良い生活を維持することができます。再発しやすいパターンを把握し、再発しそうなときに支援や治療を受けられるようにしておきましょう。病気に対する適切な知識を本人と周囲の人が知っておくとよく、自分で前兆に気づけるようにし、ストレスへの対処法も学んでおくことが大切です。好きなことや気晴らしなどの選択肢をもっておくこと、また家族・友人・仲間・支援者との良好な関係をもつことも大事です。
5-8. 結婚を考えているのですが、妊娠のことを考えると薬を飲み続けて大丈夫でしょうか
妊娠中も精神症状を安定させる薬の内服は基本的に推奨されており、薬剤選択に注意しながら主治医と相談して進めます。
統合失調症を患っている方でも、結婚し妊娠出産をされている方は、日本のみならず世界中にいます。その際、パートナーの方に病気を理解してもらえているか、妊娠にそなえて薬を整理できるか考えておく必要があります。
病気のことを明かさずに結婚することはお勧めできません。一般的には双方が結婚を真剣に考えるようになった段階で伝えることが推奨されていますが、家族会などの情報では、付き合ってまもなく構えずに伝えているケースも多いようです。その後、研修会に誘ったり、調子が悪いときの様子を伝えながら、どのような病気なのか知ってもらうとよいでしょう。外来受診時に同伴してもらい、病状や再発を防ぐ工夫、妊娠・出産にあたり気をつけることを医師に確認するとよいでしょう。
妊娠中の服薬に不安を感じる方は少なくありませんが、精神状態を安定させるための薬は、妊娠中であっても基本的には続けることが望ましいとされています。その際は、これまでの使用実績が多く安全性の情報が蓄積されている薬を選ぶこと、催奇形性のリスクが指摘されている薬は他の薬に切り替えること、赤ちゃんに届く薬の種類や量はできるだけ少なく抑えること、そして再発を防ぐために必要な服薬を自己判断でやめないことが大切なポイントになります。
5-9. 社会人としてみられたいです
就労や一人暮らしを目指すには、まず規則正しい生活リズムを整えることが土台になります。
社会人として見られたいという希望は、就労ができるか、一人暮らしができるかといったことにつながり、自立したいということと同じ意味を持ちます。就労については、2012年に障害者自立支援法が成立後、急性期の症状が改善し慢性期に入ると、就労を支援するための制度が整ってきています。
就労を目指すには、まず生活の土台を整えることが出発点になります。起床・食事・入浴・就寝といった一日のリズムを安定させておくことが、次のステップに進むための前提です。いきなりは難しい場合、デイケアや地域活動支援センターを利用しながら少しずつ生活リズムを取り戻していく方法もあります。
障害者雇用で一般企業を目指す場合には就労移行支援事業所に通い、よりサポートが必要な場合には就労継続支援事業所(A型、B型)で働くというのが一般的です。ハローワークには障害専門相談員もいます。一人暮らしについては、病状や生活リズムが安定し、薬の管理が自己管理できること、家事ができること、経済的に自立できることが重要となります。これらのことが自立できるよう訓練し、経済面では障害年金を利用できる方も多いため、それと就労を合わせて自立できることを目指すとよいでしょう。
5-10. 家族より:事実ではないことをよく言ってきます。どう対応したらいいでしょうか
本人のつらさにまず共感し、「幻聴さん」のように症状を外在化して捉える工夫も、本人・家族双方の助けになります。
急性期の後も幻聴や妄想が残存することがあり、特に現状が不本意であるほど妄想が膨らむ傾向にあります。「嫌がらせをされている」などの訴えには、まずは家族も話をよく聞いてみて、「そういうことが起こるとつらいよね」と共感することが大切です。
その上で本人の希望や目標を確認し、社会復帰や自立に向けた話し合いも持つとよいでしょう。「べてるの家」という当事者の人たちは、「幻聴さん」と名前をつけて、あたかも別人格であるかのように幻聴や妄想と仲良くし、うまく付き合う方法を話し合っています。これは「外在化」という技法で、幻聴さんのことをよく知り、どんなときに嫌がらせをしてくるかを推測し、上手に受け流すことができるように練習するものです(当事者研究)。
また、ご家族自身も、我が子の変化に対する深い喪失感や、どう対応すればよいか分からない戸惑い、この先への漠然とした不安、周囲の目を気にしてしまう気持ちなど、様々な思いを抱えながら過ごしていることが多いものです。そうした中で、自分が我慢し犠牲になるしかないと感じてしまうこともあります。しかし、家族の回復も重要です。適切な支援を受けたり、家族会に参加しながら、時には気晴らしもして、自身の健康も保つようにしましょう。
出典・参考文献
「統合失調症 あなたはどう答えますか?」
「統合失調症」
「アジアにおける統合失調症の転機」
「統合失調症の人が働くことを支援する・精神科医にできること」
「統合失調症を持つ人々の家族をいかに地域精神医療の中で支えるか」
「訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド 家族心理教育編」
「よくわかる最新医学 統合失調症」