🕊️ レジリエンス(喪失・困難を乗り越える力)

レジリエンス(喪失・困難を乗り越える力)について

レジリエンス(喪失・困難を乗り越える力)に関する記事(全3本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。

このページでわかること

喪失体験や災害、極限状況など、人生の困難にどう向き合い、どう立ち直っていくかをテーマにまとめています。大切な人やものを失ったときの心理プロセスと支え方、災害報道による不安と向き合いレジリエンス(心の回復力)を鍛える具体的な方法、そして強制収容所を生き抜いたフランクルの思想から、困難を乗り越える力について紹介します。

1. 対象喪失について

1-1. 「ロス」という言葉と喪失体験

「ロス」という言葉が広く使われるようになった背景には、大切な存在を失う喪失感がだれにでも起こりうる普遍的な体験であることがあります。

「ペットロス」など、親しい人やペットを失った喪失感や、好きだったドラマやテレビ番組の終了による喪失感を「ロス」という言葉で表現することがあります。○○ロスという表現はペットロス症候群から引用されており、2013年に放送されたNHK連続ドラマ「あまちゃん」の終了を惜しむファンによって「あまロス症候群」という言葉が流行語大賞にノミネートされたこともあります。

1-2. 人生における喪失の代表例

死別をはじめ、ペットの死、離婚や失業、身体の一部を失うことまで、人生には数え切れない喪失体験があります。

人生においてあらゆる喪失と無縁ではいられません。軽いものから大きなものまで数え切れない喪失を経験します。最も深刻な喪失体験の一つに、大切な人との死別があります。

1-3. 重大な喪失(対象喪失)の5つの分類

重大な喪失は「人物」「所有物」「環境」「身体の一部」「目標・自己イメージ」の5つに分類され、重複するとダメージが大きくなることもあります。

「重大な喪失」とは、個人的に思い入れのある何かを失うことで、対象喪失とも呼ばれ、次の5つに分類されます。

1-4. 大切な人を喪失したときの心理プロセス

喪失後の心理は、現実を受けとめられない時期から、新しい日常を歩み始める時期まで、いくつかの段階をたどっていきます。

大切な人を喪失したとき、人はどのような心理プロセスを経ていくのでしょうか。「死別後シンドローム」で紹介されている喪のプロセスは、次のような段階をたどります。

1-5. 喪失がもたらす心身への影響

大切な人との死別は身体・精神両面の不調やアルコール問題、死亡率の上昇にもつながることが調査で示されています。

大切な人が亡くなれば誰でも悲しみにくれ、かけがえのない人との死別ほど辛く絶望するものですが、時間がたつとともに次第に辛さは和らいできます。しかし、いくら時間が経過しても苦しみがいっこうに和らがない場合や、むしろ次第に悪化し体調を崩してしまう場合もあります。

1-6. 遷延性悲嘆症とは

強い悲嘆が6か月以上続き日常生活に支障が出る状態は「遷延性悲嘆症」としてWHOにより定義され、2022年に運用が開始されました。

悲しみと病の境目は、「程度」と「期間」で区別します。死別反応として、別れの悲しみだけでなく、死を受け入れることができない思い、自分の一部を失ったような虚しさ、人生に前向きになれない状態、失ったことへの怒りなどの苦しみにより、日常生活を送れなくなるくらいの「程度」が、少なくとも6ヶ月以上の「期間」続く状態を、WHOは遷延性悲嘆症と定義し、2022年に運用が開始されました。

1-7. 遷延性悲嘆症から立ち直るために

喪のプロセスを知っておくこと、自分の気持ちを表現すること、信頼できる人に話を聞いてもらうことが、立ち直りの助けになります。

大切な人との死別では、感情の嵐に圧倒されることがしばしばあります。それを自分の心で支えられないこともあり、忙しさで気を紛らわせたり見ないようにすることもあります。まず、喪のプロセス(現実を受けとめられない時期→感情が大きく揺れ動く時期→気持ちが沈み込む時期→少しずつ現実と向き合えるようになる時期、なかでも気持ちが沈み込む時期がもっとも長い)を前もって知っておくと、自分がどの段階にいるかがわかり、自分の感情に圧倒されても混乱することを防ぐことができます。

1-8. 周りの人ができること

批判や急かすことを避け、本人のペースを尊重しながら社会との橋渡し役になることが、周囲にできる支えです。

身近な人が遷延性悲嘆症で苦しんでいた場合、周囲の人はどうしたらよいでしょうか。不用意な一言で相手を傷つけたくないと考え距離をとったほうがよいと考えたり、長期間悲しみに浸り自宅にこもる様子を見てもどかしく感じたりするかもしれません。

1-9. ペットロスへの対処

ペットロスは人間の死別と同様の喪失体験であり、儀式や思い出の共有を通じて喪のプロセスを進めることができます。

現代の生活ではペットはただの犬や猫ではなく、大切な家族の一員ともいえる存在で、ペットが亡くなると人間と同様の喪失感を感じるのは自然なことです。「時間が経てば忘れる」というよく言われる言い回しは、悲しみにくれるペットの飼い主を動揺させることが多いですが、解決に必要な重要な要素の一つでもあります。

出典・参考文献

「喪失学 「ロス後」をどう生きるか?」

著者・発行元:坂口幸弘 | 出版社:光文社 | 発行年:2019

「死別後シンドローム 大切な人を亡くしたあとの心と体の痛み」

著者・発行元:清水加奈子 | 出版社:時事通信出版局(発売:時事通信社) | 発行年:2020

「Coping with Losing a Pet」

著者・発行元:Lawrence Robinson・Jeanne Segal(Ph.D.) | 出版社:HelpGuide.org

2. レジリエンス〜危機を乗り越える心の回復力〜

2-1. 熊本地震報道と心の消耗、レジリエンスとは

災害報道による心の消耗が広がるなか、苦痛を経験しながらも回復していく力「レジリエンス」は、だれでも練習によって鍛えられるとされています。

2026年7月に発生した熊本地震や、それに伴うショッキングな爆発事故の報道を目にし、強い不安や恐怖を感じている方も多いです。凄惨なニュース映像に繰り返し触れることで無意識に心が消耗する中、こうした予期せぬ危機や大きなストレスからいかに自分を守り、立ち直っていくかが重要になります。

2-2. レジリエンスを高める具体的な方法(アメリカ心理学会)

人とのつながりを保つこと、心と体の健康を育むこと、前向きな意味を見つけることなどが、回復力を高める基本的な方法です。

共感を持てる人とつながりを築き、家族や友人らと良好な関係を維持しましょう。自分は一人ではないと思い出せるとよく、オンラインでの飲み会やチャットなどに参加するのもよいでしょう。心と体の健康を育むことも大切で、体の面では適切な栄養・十分な睡眠・定期的な運動などの行動、心の健康面では祈りや瞑想、ヨガなどが挙げられ、その際は人生のポジティブな面に目を向けるようにしましょう。

2-3. 自分を知る「ABC分析」

出来事そのものではなく「どう解釈したか」が感情や行動を左右するという「ABC理論」に気づくことが、レジリエンスを鍛える第一歩です。

レジリエンスを鍛える第一歩は、日常の出来事に対する「思考のクセ」を知ることです。人は誰でも、失敗や他人からの叱責などの「出来事」に直面したとき、悲しみや怒りといったマイナスの感情を抱きます。多くの人は、その出来事が自分の感情を引き起こしていると考えますが、実際には出来事と感情の間には「自分がどう解釈したか」という考え方のプロセスがあります。

2-4. 陥りがちな「思考のワナ」

強いストレス下では「過度の一般化」や「トンネル視」といった思考のワナに陥りやすく、それに気づいて問い直す習慣が大切です。

強いストレスを感じたとき、私たちの脳は早く不快感から逃れようと判断を急ぐあまり、事実をネガティブに歪めてしまうことがあります。これを「思考のワナ」と呼びます。特に熊本地震やそれに伴うショッキングな事故の直後は、度重なる余震や悲惨な報道によって強い不安にさらされ、誰しもこのワナに陥りやすくなります。

2-5. 不安の連鎖を断ち切る

最悪・最高・現実的な展開を見比べることで、不安の連鎖から抜け出し冷静さを取り戻すことができます。

震災報道などをきっかけに、頭の中で悪い想像が次々とつながり、収拾がつかなくなってしまう経験をした人は多いはずです。「また地震が来たら」「もう元の生活には戻れないかもしれない」と、一つの不安が次の不安を呼び、気づけば取り返しのつかない未来を確信してしまう――これは脳が危機に過剰反応している状態で、放っておくと目の前の現実に対処するエネルギーそのものが失われていきます。

2-6. リアルタイムで自分の思考に反論する

偏った解釈にその場で反論する練習を重ねることで、逆境から素早く立ち直る力が身についていきます。

強いストレスの渦中で、湧き上がったネガティブな考えにその場で対処できるようになると、逆境からの立ち直りが格段に早くなります。ポイントは、最初に浮かんだ悲観的な解釈をそのまま受け取らず、三つの角度から問い直す習慣をつけることです。

2-7. 呼吸を使ってストレスから心を守る

静かな場所で呼吸に意識を向けるマインドフルネスの実践は、ストレスに関わる脳の働きを改善するという報告があります。

心理学者ダニエル・ゴールマンが紹介している、日常的なストレスから心身を守るためのシンプルな方法があります。今日ではマインドフルネスと呼ばれる呼吸法の一種で、企業研修に取り入れたところ、ストレスに関わる脳の働きが改善し、仕事へのやりがいや活力を取り戻せたという報告が2011年の論文で示されています。

2-8. 心を静めるエクササイズ

呼吸のコントロール、筋弛緩、安心できるイメージ、侵入思考をブロックするゲームなど、すぐに実践できる心を静める方法を紹介します。

急いで気持ちを落ち着かせたいとき、体を使ってアプローチする方法がいくつかあります。まず呼吸です。楽な姿勢で座り、肩の力を抜いて、鼻からゆっくりと数を数えながら深く息を吸い込み、同じようにゆっくりと吐き切ります。

出典・参考文献

「Building your resilience」

著者・発行元:American Psychological Association | 出版社:American Psychological Association(apa.org) | 発行年:2020

「Resilience guide for parents and teachers」

著者・発行元:American Psychological Association | 出版社:American Psychological Association(apa.org) | 発行年:2012

「ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] レジリエンス」

著者・発行元:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(訳:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部) | 出版社:ダイヤモンド社 | 発行年:2019

「折れない心のつくりかた〜はじめてのレジリエンスワークブック〜」

著者・発行元:一般社団法人日本ポジティブ心理学協会(監修:宇野カオリ/執筆:滝本繁) | 出版社:すばる舎 | 発行年:2016

3. 書籍紹介『夜と霧』(ヴィクトール・フランクル)

3-1. 世界的名著『夜と霧』とその著者

『夜と霧』は、精神科医フランクルによるナチス強制収容所の体験記録であり、極限状態における人間の精神を見つめた世界的名著です。

ここでは、レジリエンス(困難を乗り越える力)を考えるうえで欠かせない一冊として、『夜と霧』を簡単にご紹介します。詳しい内容は、ぜひ書籍でお読みいただければと思います。『夜と霧』は、オーストリアの精神科医ビクトール・フランクルが、第二次世界大戦中のナチスによる強制収容所での体験を記した本です。

3-2. 過酷な状況でも人が心を保てた理由

自然への感動、大切な人への愛、そしてユーモア――どんな環境でも、人は心の中に自由を持ち続けられます。

そうした過酷な環境の中でも、フランクルたちの心を支えたものがありました。護送車の窓越しに見た夕焼けの美しさに心を打たれたこと、離れ離れになった妻の面影を心に思い浮かべ対話を続けたこと、仲間と冗談を言い合い現実から一時的に距離を置いたこと――自然への感動、大切な人への愛、そしてユーモアという心の働きです。

3-3. 「人生から問われている」という視点の転換

「人生に何を期待するか」ではなく「人生から何を問われているか」——フランクルはこの視点の転換を、実際に出会った二人の男性とのやり取りを通して語っています。

フランクルの中心にある思想は、「人生に何を期待できるか」ではなく「人生が私たちに何を期待しているか」という視点の転換です。収容所では、絶望のあまり自ら命を絶とうとする者が後を絶ちませんでした。すでに命を絶ってしまった仲間を見つけても、その体を降ろすことさえ禁じられているほどの状況下では、思いとどまらせるための働きかけそのものが命をつなぐ重要な役割を担っていました。

3-4. レジリエンスの視点から、この本が伝えること

解放後もなお続いた困難を超え、それでも人生にイエスと言えたフランクルの姿は、レジリエンスそのものを体現しています。

1945年に収容所は解放されましたが、それは手放しの幸福ではありませんでした。長く感情を遮断して生きてきたことで、すぐには喜びを感じられなかったり、故郷に戻っても大切な家族がすでにこの世にいなかったりと、解放後もなお大きな困難が続いた人が多くいました。

出典・参考文献

「夜と霧 新版」

著者・発行元:ヴィクトール・E・フランクル(訳:池田香代子) | 出版社:みすず書房 | 発行年:2002

「それでも人生にイエスと言う」

著者・発行元:V・E・フランクル(訳:山田邦男・松田美佳) | 出版社:春秋社

「NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧」

著者・発行元:諸富祥彦 | 出版社:NHK出版 | 発行年:2013

関連Q&A

Q対象喪失(大切な人やペットを失う等)で悲しみが長引いている人に、周囲は何ができるか?

A何を話しても大丈夫という雰囲気を作り、批判や批評をしない、言葉に温かさを込める、悲しみのプロセスには個人差があるため急かさない、社会との橋渡し役になる、辛かった気持ちだけでなく幸せだった思い出も一緒に傾聴することが大切。

監修:久場禎三(沖縄中央病院 院長・精神科医/ラジオ番組「こころの架け橋」パーソナリティ)