🌀 心身症・その他身体関連(過敏性腸症候群等)
心身症・その他身体関連(過敏性腸症候群等)について
心身症・その他身体関連(過敏性腸症候群等)に関する記事(全1本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
検査をしても異常が見つからないのに腹痛や便通異常が続く「過敏性腸症候群」について、脳と腸の関係から、食事療法、リラックス法、考え方のクセへの気づきなど、認知行動療法的な視点も交えた具体的な対処法までをまとめています。
1. 過敏性腸症候群について
1-1. 過敏性腸症候群とは
検査で異常が見つからないのに腹痛や便通異常が続く、腸の機能性疾患です。
腹痛や腹部不快感などの腹部症状、また便秘や下痢などの便通異常を症状としますが、検査を行っても炎症や潰瘍などの器質的異常が認められない腸管の機能性疾患です。その症状の不快感は強く、20〜40歳代に多いことから学業や就業に支障をきたす場合もあります。
またストレス社会の先進国に多いといわれています。潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患、感染性腸炎、虚血性腸炎、大腸憩室症、大腸がんとの見分けが重要といわれており、大腸の検査を行っても異常が見つからない場合に疑われることも多いです。
症状によって「便秘型」「下痢型」「交代型」に分類されます。どの型にも起こり得る症状として排便により軽快する下腹部の痛み、おなら、腹鳴、膨満感、吐き気などがあり、さらにめまい・頭痛・動悸などの自律神経症状や気分の落ち込み、イライラ、不眠などが出ることもあります。若年者の場合は、症状の内容・重症度・病歴などから検査をせずに診断できる場合もあります。
1-2. 過敏性腸症候群になりやすいのはどんな人か
青年期から成人期に多いとされますが、高齢者にもみられ、男女で症状の出方に違いがあります。
正確な患者数を把握するのは難しいものの、軽症例まで含めると成人のおよそ1〜2割が過敏性腸症候群に該当すると推計されています。思春期から30代にかけて発症するイメージが強い病気ですが、実際には高齢になってから症状に気づく人も少なくありません。
患者の性別では女性が男性の倍近くを占めるとされ、男性は症状があっても受診をためらう傾向があることも一因として指摘されています。症状の出方にも性差があり、緊張やプレッシャーの場面で下痢を起こしやすい男性に対し、女性は腸の動きが鈍くなる便秘型の症状を訴えることが多いとされています。
1-3. 精神障害なのか(機能異常性腸疾患としての位置づけ)
精神障害でも炎症性の病気でもない「機能異常性腸疾患」として位置づけられています。
過敏性腸症候群は精神科的な病気そのものではなく、また潰瘍性大腸炎やクローン病のように腸に炎症や潰瘍が生じているわけでもありません。検査では捉えられない腸の「働き方」の異常、すなわち機能性の消化管疾患として理解されており、ストレスが発症の引き金になりやすいことから、ストレスとの付き合い方を整えることが症状管理の柱の一つになります。
ノロウイルスなどの感染性胃腸炎が治まった後も、腸の過敏さだけが後遺症のように残ってしまう人が一定数いることも知られています。
1-4. なぜ精神的ストレスが腸に影響するのか(脳腸相関)
脳と腸は密接に情報をやり取りしており、腸内細菌もそのやり取りに関わっていると考えられています。
脳と腸の関係は密接であり、「脳と腸は対話する」とも言われています。腸は脳に情報を送り、脳は腸に情報を送っており、まるで対話をしているように作用しあっています。研究によって、この対話に「腸内細菌」が深く関わっていることが分かってきており、ストレスが腸内環境を乱し、乱れた腸内細菌が脳に不安信号を送るという悪循環が起きていると考えられています。
よく緊張すると便が緩んだり便秘になったりする人も多く、ストレスは身体の各部位に作用しており、当然消化管にも影響を与えています。過敏性腸症候群の病態には遺伝的関与、腸内細菌、神経伝達物質、内分泌が関与していると言われていますが、ストレスや心理的要因も関与していると言われています。
1-5. 症状をコントロールするために必要なこと
ストレスをコントロールする方法を学ぶことや、低FODMAP食などの食事の工夫が症状の緩和に役立ちます。
過敏性腸症候群にかかった人はストレスを感じると症状が悪化することが知られていますので、ストレスをコントロールする方法を学ぶことで症状をある程度コントロールできるといわれており、認知行動療法的な考えを学ぶことが症状コントロールに有効といわれています。過敏性腸症候群の便秘や下痢に直接作用する新薬も登場してきており、以前病院で治らなかった方も、今は自分に合うお薬が見つかる可能性があるため、消化器内科で相談することが推奨されます。
また「低FODMAP(フォドマップ)食」という食事法が世界的に注目されています。小麦(パンやパスタ)、乳製品、玉ねぎ、特定の豆類など、腸内で発酵してガスを発生させやすい特定の糖質を控えることで、お腹の張りや痛みが改善するケースが多いです。
1-6. ストレスが要因の場合の認知行動療法的アプローチ
症状の記録やリラックス法、考え方の見直しなど、認知行動療法的な工夫が症状コントロールに役立ちます。
ストレスが症状の引き金になっている場合、認知行動療法の考え方を取り入れたアプローチが役立つとされています。具体的には、症状とそのきっかけ、それに対する自分の反応を日記などに書き留めてパターンをつかむこと、体の緊張をゆるめるリラックス法を身につけること、うまくいかない出来事を自分のせいだと決めつけがちな考え方のクセに気づいて別の角度から眺め直してみること、そして腹部症状を悪化させているストレスの根本原因について、一足飛びにではなく段階を踏みながら解決策を探っていくこと、といった取り組みが挙げられます。
1-7. 症状コントロールのための最初のステップ
まずは症状や生活の記録をつけることで、自分の症状のパターンとストレスの正体が見えてきます。
取り組みの第一歩は、日々の生活の中で自分の症状にどのような要因が影響しているかを知ることです。そのために、症状そのものだけでなく、食べたもの、ちょっとしたいらだちの出来事、そのときの気分や物事への向き合い方、していた活動、一日のスケジュールなど、生活全般を記録していきます。
記録は面倒に感じられるかもしれませんが、続けることで自分の状態を一歩引いて眺められるようになり、これまで気づかなかった症状の出方のパターンや、実は関わっていたストレスの正体が見えてきます。パターンがつかめてくると、前もって対策を立てたり、引き金となる状況を避けたりする工夫がしやすくなります。特定の状況・考え方・体の感覚・行動が一連の流れとして症状につながっていることが分かれば、対処の糸口も見つけやすくなります。
1-8. 過敏性腸症候群の食事療法について
小麦や乳製品など特定の糖質を控える「低FODMAP食」は、症状の改善が報告されている食事法です。
薬物治療の改善率が58%、低FODMAP食では76%の人に症状が改善したという報告があります。FODMAP(発酵性のオリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオールの略)は、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵してガスを出したり水分を引き込んで下痢を起こしたりしやすい「4種類の糖質」を指します。
具体例としては、主食はパン・パスタ・ラーメンなどの「小麦」を控えめにし、代わりに米・米粉パンにします。野菜・きのこは玉ねぎ、にんにく、ごぼう、アスパラガス、セロリ、カリフラワー、きのこ類がガスが発生しやすいため、代わりにトマト、にんじん、レタス、きゅうり、ピーマン、ほうれん草、じゃがいもにします。果物はりんご、すいか、マンゴーを控え、バナナ、いちご、オレンジ、キウイ、みかんにします。乳製品は牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、クリームチーズがお腹を下しやすいため、アーモンドミルクや硬いチーズを選びます。豆類・甘味料は納豆などの豆類や、はちみつ、キシリトールやソルビトールなどの人工甘味料もお腹の張りにつながりやすいので注意が必要です。
1-9. リラックス法を学んで、身体をコントロールする
横隔膜呼吸を使ったリラックス法を練習し、少しずつ日常生活に取り入れていくことが役立ちます。
次に取り組みたいのが、腹式(横隔膜)呼吸を使ったリラックス法です。片方の手をおへその上、もう片方の手を胸の上に軽く添え、普段どのように呼吸しているかをまず観察してみましょう。慣れてきたら、胸はできるだけ動かさず、息を吸うたびにおなかがふくらむような呼吸に切り替えます。
おなかの中で風船をゆっくりふくらませては、ゆっくりしぼませるようなイメージで、深い呼吸を繰り返します。息を吐きながら心の中で「リラックス」など落ち着く言葉を唱えたり、数を数えたりしながら練習すると、感覚をつかみやすくなります。目安として1回10分程度を1日に2〜3回、無理なく続けてみましょう。全身の力を抜くイメージを合わせて持つのも効果的です。腹式呼吸に限らず、テレビを見る、庭いじりをする、体を動かすなど、自分に合ったリラックス法を見つけて、できることから日常生活に取り入れていくとよいでしょう。
1-10. 自分の思考のクセに気づいて、幅広い視野を持つ
過敏性腸症候群の人は心配しやすい傾向があり、良い心配と悪い心配を見分けることが大切です。
過敏性腸症候群の症状がある人は、そうでない人に比べて物事を心配しやすい思考パターンを持つ傾向があることが研究からわかっています。心配事の多くは、大きく2つに分けられます。一つは、もう起きてしまっていて自分にはどうにもできない出来事についての心配、もう一つは、まだ起きていない――そしてほとんどの場合は実際には起こらない――出来事についての心配です。
心配そのものにも、役立つものとそうでないものがあります。目の前の問題を解決するための具体的な行動につながる心配は、いわば「良い心配」で、問題と向き合い、それを解決しようと考えることそのものです。一方、すでに終わって変えようのないことをいつまでも気にかけたり、いつ起こるとも知れない先々のことを漠然と案じたりする心配は、「悪い心配」といえます。例えば「人と話している最中にお腹が鳴ったらどうしよう」といった心配がこれにあたります。心配事が積み重なると体調にも影響するため、心配しすぎない考え方を練習することが役立ちます。その際は、「心配だ」という感情そのものよりも、「自分が今どのように考えているか」というプロセスに目を向けるとよいでしょう。
1-11. 心配し過ぎをどのようにして治すか
頭に浮かぶ「自動思考」に気づき、別の見方がないか問い直す練習が心配し過ぎの改善に役立ちます。
はじめの一歩は、頭に自然と浮かんでくる心配事=自動思考に、その場で気づけるようになることです。自動思考は後から振り返ると「ずいぶん極端に考えていたな」と思えるものですが、浮かんだ瞬間はその考えに気持ちが引っ張られ、腸が反応して腹痛や下痢につながってしまいます。
こうした「行き過ぎた心配のクセ」に気づいたら、その都度いったん立ち止まり、他の見方ができないか考えてみることが助けになります。具体的には、「この考えを裏づける根拠はどれくらいあるだろう?」「同じ状況にいる友人がいたら、自分は何とアドバイスするだろう?」「もし本当に心配していることが起きたとしても、これまでの経験からして自分には対処できる力があるのではないか?」「この考え方は今の自分にとって役立っているだろうか、それとも縛られているだけだろうか?」「見方を変えたら、この状況は違って見えないだろうか?」といった問いを自分に投げかけてみるとよいでしょう。
1-12. 強い思い込みをなくす
完璧主義や白黒思考といった強い思い込みに気づき、別の可能性を探す練習が症状の改善につながります。
過敏性腸症候群の症状がある人は、特定の「思い込み」に縛られやすい傾向があると考えられています。代表的なものの一つが完璧主義です。完璧を求めること自体は悪いことではありませんが、自分に対する基準が高くなりすぎて、常に何らかのプレッシャーを抱え込んでしまうことがあります。
ほかにも、他人からどう評価されるかでしか自分の価値を感じられなかったり、物事を白か黒かではっきりさせないと気が済まなかったりする傾向がみられることもあります。世の中には割り切れないことやあいまいなことも多いため、そうした不確実さをある程度受け入れられる心の余裕を持つことも大切です。こうした思い込みに自分で気づき、別の可能性を探す練習を重ねることが助けになります。思い込みに気づいたら、「相手の立場だったらどう考えるだろう」「この状況には、ほかにどんな見方ができるだろう」「この考え方は自分にとって本当に役立っているだろうか」と自分に問いかけてみましょう。心配していた悪い予測が実際にどれくらいの確率で起こりそうかを冷静に考え直してみると、多くの場合、必要以上に悪く見積もっていたことに気づけます。腹式呼吸や筋弛緩法などのリラックス法、自分の思考のクセを振り返ること、心配しすぎない練習、そして強い思い込みを手放すこと――これらを日々少しずつ実践していくことが、過敏性腸症候群と上手につきあっていく力になります。
出典・参考文献
「過敏性腸症候群(IBS)診療ガイドライン」
「Nybacka S, Törnblom H, Josefsson A, et al. A low FODMAP diet plus traditional dietary advice versus a low-carbohydrate diet versus pharmacological treatment in irritable bowel syndrome (CARIBS): a single-centre, single-blind, randomised controlled trial. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9(6):507-520.」
「IBS克服10のステップ 過敏性腸症候群で悩む人&専門家へ」