📎 心の健康と食事・運動の関係
心の健康と食事・運動の関係について
心の健康と食事・運動の関係に関する記事(全1本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
食事・運動・生活リズムといった日常生活の工夫が、こころの健康にどう影響するかをまとめています。うつ病と栄養・運動の関係、うつ病に関わる具体的な栄養素、腸内細菌との関係、そして規則正しい生活リズムの大切さまでを紹介します。
1. 心の健康と食事・運動の関係について
1-1. こころの健康と日常生活:食事・運動についての話題
食生活や運動、睡眠などの日常生活が、心の健康=脳の健康に深く影響していることがわかってきています。
現在のこころの病気の治療は、心身の休養、薬物療法、心理療法が治療の主流であり、食事や運動などの日常生活については重要視されていませんでした。しかし研究によって、食生活や運動、睡眠などが心の健康=脳の健康に深く影響していることがわかってきています。
今回はうつ病などのストレス関連の精神疾患と日常生活に関することを紹介します。
うつ病とは、憂うつな気分が続いて物事への興味関心がなくなる病気です。うつ病の治療は、①心身の休養、②環境調整(負担になっているストレスを減らす)、③心理療法(ストレスにうまく対処できるように指導・トレーニング)、④薬物療法が主な治療法です。食生活を整えることの有効性を示す研究結果もあるため、治療の一環として生活習慣を見直すことも注目されています。また、運動不足や不眠もメンタルヘルスに悪い影響を与えることがわかってきています。
1-2. うつ病と栄養の関係
トリプトファンやDHA・EPA、ビタミンB群、鉄・亜鉛など、特定の栄養素の不足がうつ病のリスクと関連しています。
糖尿病、メタボリック症候群はうつ病のリスクとなり、うつ病になるとこれらの病気の発症リスクが高まります。アミノ酸であるトリプトファン(蛋白質:肉・魚・豆・ナッツ・豆乳・乳製品など)の摂取不足がうつ状態を誘起する可能性が指摘されています。
多価不飽和脂肪酸(DHAやEPA:魚の油)が不足するとうつになりやすいです。ビタミンB6、B12、葉酸の不足とうつ病が関連しています。ミネラルでは、鉄や亜鉛の不足がうつ病のリスクを高めます。腸内細菌叢の悪化による免疫学的変化がうつ状態を引き起こす可能性が指摘されています。緑茶やコーヒーをよく飲む人はうつ症状を呈しにくいという報告が増えています。うつは手強い病気であるため、食生活を改善しさえすればよいというものではなく、ストレスのかからない環境調整、抗うつ薬の服薬、認知行動療法など総合的な取り組みが必要です。
1-3. お腹の脂肪とうつ病
肥満とうつ病は互いにリスクを高め合う関係にあることが研究で示されています。
肥満とうつ病の間には、双方向的にリスクを高め合う関係があることが複数の研究からわかってきています。減量に取り組んで内臓脂肪が減ると、身体面だけでなく気分の落ち込みにも良い影響が及ぶ可能性があり、うつ病や認知症の発症リスクの低下にもつながると考えられています。
国内外の研究を統合した解析でも、肥満のある人はうつ病を発症するリスクがおよそ1.5倍高く、逆にうつ病のある人が肥満になるリスクも同程度高まるという結果が示されています。
1-4. ストレスホルモンと食欲
慢性的なストレスはコルチゾールというホルモンを通じて食欲を高めることがあります。
強いストレスを感じたときに食べ物へ手が伸びやすくなる現象は、ストレス誘発性摂食(stress-induced eating)と呼ばれ、食べる量の増え方が著しい場合はストレス誘発性過食(stress-induced hyperphagia)と区別されることもあります。実際、日々のストレスを強く感じている人ほどエネルギー摂取量や脂質の摂取量が多くなる傾向があるという調査結果が報告されており、仕事の負荷が高い時期は低い時期に比べて摂取エネルギー・脂質量がともに増えるという研究もあります。
急激で強い不安・緊張を伴うストレスはむしろ食欲を落とすことが多い一方、長引く慢性的なストレスではコルチゾールというホルモンの働きにより食欲が高まりやすいとされています。ストレスを紛らわすために食べる場合は、ナッツ類やゆで卵など、太りにくく腹持ちのよい食品を選ぶとよいでしょう。
1-5. うつ病のリスクを下げる食事
地中海式食事や伝統的な和食など、栄養バランスのよい食事はうつ病のリスクを下げると考えられています。
うつの症状に効く特別な食事メニューがあるわけではなく、基本は栄養バランスの取れた食事を規則正しく続けることです。生活習慣病を防ぐ食事や運動は、そのままうつ病の予防・改善にも役立つと考えられています。食事のパターンとしては、地中海沿岸の伝統的な食事スタイルや、日本の伝統的な食事がうつ病のリスクを下げるとする報告が複数あります。
いわゆる地中海式の食事は、加工肉や砂糖、清涼飲料水などを多くとる欧米型の食事に比べてうつ病リスクが低いとされます。具体的には、野菜・果物・種実類・豆類・魚介類・オリーブオイルを中心に、精製度の低い穀物や適量のワインを取り入れ、赤身肉や菓子類は控えめにする食べ方です。対照的に、ハムやソーセージなどの加工肉、ファストフード、スナック菓子、菓子パン、砂糖、加糖飲料、アルコール類を頻繁にとる食習慣がリスクを高める側の典型例として挙げられます。ただし地中海式の食事は日本の食文化にそのまま当てはまるわけではなく、魚や大豆食品、海藻、きのこ、緑黄色野菜、緑茶を中心とした伝統的な和食も、健康によい食事パターンとして評価されています。一方で和食は醤油や味噌による塩分の多さ、乳製品の少なさが課題とされるため、減塩を意識しつつ乳製品を適度に取り入れる工夫が望ましいといえます。
1-6. うつを和らげる運動療法
無理のない範囲で続ける有酸素運動は、抗うつ薬と同等の効果が報告されることもあります。
うつ病の治療・予防の選択肢として、運動療法への関心が高まっています。欧米の追跡調査では、中高年層を対象に数年単位で生活習慣を追跡した研究で、日頃の身体活動量が多い人ほどその後のうつ病発症率が低いという結果が繰り返し報告されています。
また、複数の臨床研究を統合した解析では、一定期間(2か月程度)以上継続した運動プログラムがうつ症状の軽減に有効であり、その効果は抗うつ薬による治療とほぼ同程度だったとする報告もあります。
運動の中身としては、息が弾む程度のウォーキングやジョギング、エアロビクス、ダンスなど、有酸素運動を週に数回、無理のない範囲で続けることが勧められています(筋力トレーニングを中心にする必要は必ずしもありません)。動物を用いた基礎研究では、こうした運動によって記憶をつかさどる海馬で新しい神経細胞が生まれることも確認されており、適度な運動習慣はうつ症状の緩和だけでなく、ストレスに強い心身をつくることにもつながると考えられます。
1-7. うつ病に関わる栄養素
ビタミンB群・ビタミンD・鉄・亜鉛・オメガ3系脂肪酸など、うつ病と関連する栄養素とその食品をまとめました。
うつ病との関連が指摘されている栄養素は多岐にわたります。ビタミンB群(B1・B6・B12・葉酸)は神経伝達物質の合成に関わっており、不足するとうつ症状のリスクが上がるとされ、豚肉、魚介類、レバー、緑黄色野菜、大豆製品などに幅広く含まれています。
ビタミンDも日光を浴びることで皮膚で合成される栄養素で、血中濃度が低い人はうつ病のリスクが高いという報告があり、葉酸の補充がうつ病治療の補助に役立ったという報告も少なくありません。
ミネラルのうち鉄・亜鉛・マグネシウムの不足もうつ病との関連が指摘されており、赤身肉や魚介類、大豆製品などから補うことができます。神経伝達物質セロトニンの材料となるアミノ酸・トリプトファンが不足すると気分が落ち込みやすくなるとされ、肉・魚・大豆製品・乳製品・卵などのたんぱく質性食品から摂取できます。青魚に多いオメガ3系脂肪酸(EPA・DHA)は動脈硬化の予防で知られていますが、血中濃度が低い人はうつ病リスクが高いという報告もあり、週に数回は魚を食卓に取り入れることが勧められています。このほか、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌・ビフィズス菌がストレスによるうつ状態を和らげたという研究や、緑茶を習慣的に多く飲む人でうつ症状が少なかったという報告もあります。
1-8. 鉄欠乏とうつ病
鉄欠乏は貧血だけでなく、うつ病と似た症状やうつ病リスクの上昇とも関連しています。
鉄が不足すると貧血になることはよく知られていますが、近年はうつ病のリスクとも関係することがわかってきました。脳内でセロトニンなどの神経伝達物質が働くためにも鉄は必要で、不足するとイライラ感や倦怠感、集中力の低下、物事への関心の薄れといった、うつ病の症状とも重なる変化が現れやすくなります。
月経のある女性は鉄欠乏になりやすい層で、国内の調査でも30〜40代女性の一定割合でヘモグロビン値の低下がみられています。鉄欠乏は世界的にも頻度の高い栄養課題であり、小麦粉に鉄分や葉酸を添加することを法律で義務づけている国が50か国以上にのぼるとの報告もあります(出典:MMWR57(1):8-10)。
1-9. 腸内細菌とうつ病
乳酸菌やビフィズス菌の摂取がストレス反応を和らげる可能性が、動物実験やヒトの研究で示されています。
腸内細菌とストレス反応の関係を調べた動物実験では、腸内細菌のバランスが乱れるとストレスへの反応が強まり、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を補うとその反応がやわらぐことが報告されています。ヒトを対象にした研究でも、乳酸菌・ビフィズス菌などのサプリメントを1か月ほど継続して摂取したグループは、摂取しなかったグループに比べてうつや不安といったストレス症状が有意に軽減し、ストレスホルモンの一種であるコルチゾール(グルココルチコイド)の尿中濃度も低下したという結果が得られています。
抗菌薬は必要な腸内細菌まで減らしてしまうことがあるため、使用は必要な範囲にとどめることが望ましいといえます。
1-10. 規則正しい生活と朝食習慣の大切さ
規則正しい生活リズムと朝食の習慣は、体内時計を整えうつ病の予防につながると考えられています。
便利になった現代の暮らしには、気づかないうちに心の健康を損ないやすい要因がいくつも潜んでいます。過食や運動不足になりやすい食生活・車移動中心の生活、スマートフォンやゲーム、SNSに長時間触れることによる夜更かしや慢性的な情報過多などは、いずれもストレスを積み重ねる方向に働きます。
こうした要因を避け、規則正しい生活リズムを保つことは気分の安定に役立つとされ、双極性障害の治療法の一つである社会リズム療法もこの考え方を基盤にしています。中でも重要とされているのが朝食の習慣で、朝食をきちんととる人はとらない人に比べてうつ病のリスクが低いというデータが積み重なっています。
例えばインドの青年約1,800人を対象とした調査では、朝食を習慣的にとる人は野菜・果物・乳製品の摂取量が多く、肥満の割合が低く、運動習慣を持つ人が多い上に、学習時間も長く、うつ症状も少ないという結果が報告されています。しっかり朝食をとれる生活を送るには、夜更かしや夜遅い時間の食事を避け、睡眠リズムを整えることが土台になります。朝、太陽の光を浴びながら食事をとる習慣は体内時計をリセットする働きがあり、結果として夜の寝つきや睡眠の質を高めることにもつながります。
こころの健康を保つうえでは、①規則正しい生活リズムで朝日を浴び朝食をとり体内時計を整えること、②ストレスによる過食に気をつけながらバランスよく良質なたんぱく質をとること、③青魚に含まれるEPA・DHAなど、うつ病の予防・改善が期待される脂肪酸を意識してとること、④きのこや海藻などビタミン・ミネラルが豊富な食品や緑茶を活用すること、⑤腸内環境を整えてストレスに強い体をつくること、⑥日常的な身体活動を増やし運動習慣を持つこと、といった積み重ねが役立つと考えられます。こうした生活習慣病の予防は、うつ病や認知症の予防にもつながります。ただし、すでにうつ病を発症している場合は食生活の見直しだけで治そうとせず、十分な休養、ストレスの少ない環境づくり、心理療法、薬物療法などを組み合わせて対応することが大切です。
出典・参考文献
「心の病を治す食事・運動・睡眠の整え方」
「こころに効く精神栄養学」