🌥️ うつ病
うつ病について
うつ病に関する記事(全3本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
うつ病は、日常生活が送れなくなるほどの気分の落ち込みと意欲の低下が2週間以上続く病気で、生物学的・心理的・環境的な要因が絡み合って発症します。治療は休養・薬物療法・精神療法を組み合わせて行い、軽症でもしっかり治療することが重症化の予防につながります。家族の対応の仕方や、治りにくい場合の考え方、日常生活での工夫についてもあわせて紹介しています。
1. うつ病について
1-1. うつ病とはどんな病気?
うつ病は、日常生活が送れなくなるほどの気分の落ち込みと意欲の低下が2週間以上続く状態で、15人に1人ほどが経験する決して珍しくない病気です。
うつ病とは、「日常生活ができなくなるくらいの気分の落ち込み」と「意欲の低下」が2週間以上続いた状態です。気分の落ち込みや意欲の低下自体は誰でも経験しますが、うつ病では、仕事や学校に行けなくなったり、家事ができなくなったりするほどの程度に達することがポイントです。
日本では生涯のうつ病有病率は6.5%、つまり15人に1人ほどが経験するとされ、うつ病患者数は増加傾向にあり、6人に1人という報告もあります。決して珍しい病気ではありませんが、家族としてどう対応すればよいかはあまり知られていません。
かつては「こころの風邪」と言われた時期もありましたが、放っておくと「普段の判断力がなくなり、自殺を考えてしまう」こともある病気であるため、現在では「こころの肺炎」とも言われています。過度に恐れる必要はありませんが、簡単な病気でもありません。日本の自殺者数は年間2万人台で推移しており、自殺者の半数程度はうつ病という統計もあります。このような悪循環に早く気づき、早く治療することが大切です。
1-2. 健康な「憂うつ」とうつ病の違い
健康な「憂うつ」は時間が経てば元に戻りますが、うつ病では元に戻らずますます気力が落ちていく悪循環に陥ります。
気分が落ち込むこと自体は、誰にでも起こる自然な反応です。ショックな出来事やストレスにさらされれば、気持ちが沈んだり、やる気が出なくなったりするのは当然のことで、そうした変化があるからこそ、自分が苦しい状況に置かれていると気づくことができます。
問題は、その落ち込みが元に戻るかどうかです。健康な状態であれば、休息をとったり気分転換をしたりすることで、数日のうちに元の調子を取り戻せます。大きな喪失があった場合はもう少し時間がかかりますが、それでも徐々に回復していきます。これに対してうつ病では、休んでも気力が戻らず、逆にじわじわとエネルギーが失われていく状態に陥ります。不眠や食欲低下、集中力の低下といった症状が長く続くようであれば、単なる疲れではなくうつ病を疑ったほうがよいでしょう。健康な状態とうつ病との境目ははっきりしないことも多く、本人も周囲も気づかないうちに進行してしまうケースも珍しくありません。
1-3. うつ病の症状
気分の落ち込みや意欲低下に加え、自分を責める気持ちや消えたい・死にたいという気持ちが2週間以上続く場合はうつ病の可能性が高いといえます。
うつ病では、次のような症状がみられます。
- 憂うつな気分が続く、何をやっても楽しめない
- 食欲がない、ちょっとしたことですぐ疲れる
- 「ダメな自分が本当の自分だ」と感じる、いろいろなことを自分のせいだと思う(極端な場合は天気や地震まで自分のせいだと感じることも)
- 集中できない
- 消えたい、死にたいと思う
- 周囲の何気ない言葉を悪く受け止めてしまう
これらの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性が高いといえます。不眠・食欲低下・集中力低下から仕事や家事の効率が落ち、「もっとがんばらなければ」という罪悪感でさらにエネルギーを消耗し、自信がなくなって「何をやってもうまくいかない」という悪循環に陥ります。この悪循環が進むと、自己否定が強まり、「自殺したい」という気持ちが強くなることがあります。家族から見ると、疲れきって仕事から帰るとぬけがらのようになっていたり、寝込んで具合悪そうにしていたり、悲観的な発言が増えたりすることが多く、このような様子がみられたらうつ病を疑って、近くの医療機関に相談してみるとよいでしょう。
1-4. なぜうつ病になるのか
生物学的・心理的・環境的という3つの要因が複雑にからみあい、ストレスと睡眠不足の悪循環を通じて発症すると考えられています。
うつ病は、生物学的要因・心理的要因・環境的要因という3つの要因が複雑にからみあって発症すると考えられています。
- 生物学的要因:脳内のセロトニンやノルアドレナリンの分泌低下、前頭前野の活動低下、遺伝的素因
- 心理的要因:悲観的、几帳面すぎる、正義感が強すぎる、他罰的・自罰的、自尊心が低いといった性格傾向
- 環境的要因:仕事の責任の重さ、家族関係や職場関係の悪化、自分ではコントロールできない不幸が続くこと。人事異動・結婚・出産・老化といった環境の変化、身近な人の死や失業といった喪失体験、がん・脳卒中・パーキンソン病などの体調の悪化、パワハラなど人間関係のストレスも引き金になります
また、うつ病発症に至るモデルとして、複数のストレスが重なっているときに周囲から十分なサポートが得られない環境が重なり、不安で十分な睡眠がとれず脳の機能回復が不十分になる→脳が出来事を処理しきれず機能がさらに低下する→物事の否定的な側面ばかり見てしまうようになる→周囲のサポートを過小評価して一人で抱え込み孤独感を感じる→負荷を過大評価してさらにストレスを感じやすくなる、という悪循環が形成されて発症する、という説明がなされています。この悪循環を一つずつ断ち切っていくことが治療につながります。自分では発症に気づきにくく、普段の状態とうつ病の境目にはグレーゾーンがあるため、発症初期にはわかりにくいという特徴もあります。
1-5. うつ病の重症度と診断
診断には5つ以上の症状が2週間続くことが目安となり、軽症・中等症・重症の見極めが治療方針を左右します。
診断では、毎日1日中、抑うつ気分・興味関心の低下・体重減少や食欲低下・不眠・焦燥感や思考制止・疲労感・無価値感や罪責感・集中力低下・自殺念慮などの症状のうち5つ以上が2週間続いていることが目安となります。まず「うつ状態」と「うつ病」は必ずしも同じではなく、体の病気や薬・物質によってうつ状態が引き起こされることもあるため、本当にうつ病かどうかを主治医と一緒に見極めることが最初のステップです。
うつ病と診断された後は、重症度を把握することが治療法や療養の仕方を決めるうえで重要です。
- 軽症:付き合いを避けがちになる、掃除や洗濯など普段の家事が滞りがちになる、出勤はできてもミスが増えたり仕事のペースが落ちたりする
- 中等症:友人とほとんど連絡を取らなくなる、家にいてもぼんやり過ごしたり横になっている時間が長くなる、出勤や登校自体が難しくなる
- 重症:着替えや食事など身の回りのことに支障が出て周囲の手助けが欠かせなくなる、幻覚や妄想を伴うことがある、強い希死念慮があり自分ではコントロールできない
自分でできる重症度評価として、QIDS-J(簡易抑うつ症状尺度日本語版)という自己評価式の検査があり、インターネットで調べて行うこともできます。軽症だからといって甘くみることはできず、気分の落ち込みや集中力低下によって生活の質はかなり下がるため、軽症であってもしっかり治療することが改善の近道であり、重症化の予防にもなります。
1-6. 治療について
治療は休養・薬物療法・精神療法(支持的精神療法や心理教育、認知行動療法など)を組み合わせて行い、抗うつ薬は原則1種類を十分量まで用いるのが基本です。
うつ病の治療は、大きく分けて「休養」「お薬(薬物療法)」「精神療法(カウンセリングなど)」の組み合わせで行われます。急性期はまず休むことが大切で、そのうえで治療薬を一定期間飲み続けます。軽症の場合や回復期には、物事の受け止め方に焦点をあてて気分が落ち込みやすい考え方を修正し、行動面を変えていく認知行動療法も有効です。
うつ病の治療は、重症度にかかわらずまず土台となる関わりから始まります。一つは、本人が抱えている辛さや悩みをしっかり聞き取り、寄り添いながら状況を一緒に整理していく関わり方(支持的精神療法)です。もう一つは、今の症状がどのようなものか、今後どのような経過をたどりやすいか、どんな治療の選択肢があるかを丁寧に説明していく関わり方(心理教育)です。いきなり薬やカウンセリングから始めるのではなく、まずこうした基礎的な介入を行うことが重要とされています。これだけで改善しない場合に、薬物療法や精神療法(対話による治療)が検討されます。
薬物療法で使われる抗うつ薬には、脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあります。現在はSSRI・SNRI・NaSSAといった新しいタイプの抗うつ薬が、従来の三環系抗うつ薬に比べて重大な副作用が少ないことから推奨されています。抗うつ薬による治療では、基本的に一度に使う薬は一種類にとどめます。副作用が強く出なければ、効果が見込める量まで比較的早いペースで増やしていき、その量で数週間から1〜2ヶ月ほど様子を見ます。それでも改善がみられない場合は、別の薬に切り替えて再び同じ手順を繰り返す、という進め方が一般的です。必要に応じて抗不安薬や睡眠薬の一時的な使用、気分安定薬などによる増強療法、認知行動療法が併用されることもあり、薬剤抵抗性や重症例では電気けいれん療法が検討されることもあります。なお、以前よく使われていたベンゾジアゼピン系の抗不安薬(いわゆる安定剤)は、依存性や注意力低下、転倒リスクなどから長期間の使用は推奨されていません。
お薬には、毎日飲み続ける薬(抗うつ薬や、効果を増強・安定させる気分安定薬・抗精神病薬など)と、調子が悪いときに臨時で飲む薬(抗不安薬)があり、この二つは明確に区別して考えるとよいでしょう。臨時薬に頼りすぎている場合は、リラックス法や呼吸法など薬以外の対処法を学ぶことで、飲む機会を減らしていくこともできます。
1-7. 回復までの経過とリハビリ
回復には数ヶ月〜数年かかることもあり、休養期を経てリハビリ期に移行しながら、元に戻るというより柔軟な考え方を身につけていくことが大切です。
うつ病の回復過程は、1〜2ヶ月で済むこともあれば、1年から数年以上かかる場合もあります。症状が重い時期や動けない時期はしっかり休むことが必要な時期であり、その間はお薬の調整を行います。1週間のうち数日動けるようになってきたらリハビリ期に入り、外出したり人と会ったり、仕事のことを少しずつ思い出したりしながら過ごします。
治療経過には大きく二つのパターンがあります。一つは治療によって症状が完全になくなる「治る」パターン、もう一つは良くはなるものの一定の症状(身体のだるさや意欲の出にくさなど)が残り、病気とつきあいながら生活していくパターンです。「自殺したい気持ち」や「絶望感」は一時的なものであることが多い一方、身体のだるさなどは残りやすい症状とされています。
慢性化した場合のリハビリテーションとしては、集団での認知行動療法(社会復帰の段階で集団に交わることも大切)、外出訓練やアサーション・トレーニング(自己表現の練習)、不安時の対処行動訓練、図書館・デイケア・就労移行支援事業所・自立訓練施設などに通うこと、定期的な運動、読書療法(うつや認知行動療法に関する本を読むこと)などが有効とされています。治るとは、調子の悪い自分や病気になってしまった自分も受け入れ、うつ症状の芽を早めに発見して対処できるようになることであり、元通りに戻るというより、うつ病を通じて柔軟な考え方を身につけることが大切だとされています。もちろん、うつ症状そのものの軽減は最大の目標の一つです。
1-8. 家族との向き合い方
傾聴・共感・理解・受容・支持を基本に、励ましや気分転換の強要を避け、温かい距離感を保つことが回復を支えます。
家族がうつ病になったときは、まず「うつ病になった」という事実を受け入れることが出発点です。つらそうな家族を見て不安になるのは当然の反応ですが、不安に駆られて叱咤激励したり叱ったりせず、家族自身がどっしりと構え、適度に息抜きをすることも大切です。
対応の基本は、傾聴(きちんと話を聞く)、共感(うなずきながら気持ちに寄り添う)、理解(つらい気持ちを抱えていることを理解する)、受容(「一緒に考えていこう」という言葉かけ)、支持(「力になりたい」という気持ちを伝える)の5つです。このような対応によって、安心感・信頼感・先行きへの希望を少しずつ回復していくことができます。
「頑張って」「元気を出して」といった励ましの言葉や、「考えすぎだよ」という気休め、「しっかりして」という叱咤、「気分転換に外へ出よう」という誘いは、善意であっても本人には負担になりがちです。すでに精一杯の状態にある本人にとって、こうした言葉は「今の自分ではまだ足りない」というメッセージとして伝わりやすく、かえって追い詰めてしまうことがあります。だらだらして怠けているように見えても、それは「しっかり充電している」時期だと捉え、心配していることや大切に思っていることを伝えたうえで、温かい距離感を保つことが大切です。
1-9. 治りにくいうつ病・特殊なケースについて
双極性障害や他の疾患の併存、精神病症状を伴うケース、妊娠中・若年者・高齢者など、特別な配慮が必要な場合があります。
慢性うつ病の方でも、数年以上お薬を調整したり、集団の認知行動療法などのリハビリを何ヶ月も続けたりすることで良くなった方が多くいます。治りにくいうつ病の中には、実は双極性障害だったというケースもあり、双極性障害としての治療に切り替えて良くなった方もいます。
また、うつ病以外に発達障害やパニック障害、アルコール依存症などが併存していることもあり、その場合はうつ病だけでなくそれぞれの治療を行うことが大切です。
うつ病の症状に加えて、精神病症状(うつの気分に一致した妄想)を伴う「精神病性のうつ病」もあります。「自分は非常に罪深い人間だ」と思い込む罪業妄想、実際には病気でないのに重い病気にかかったと思い込む心気妄想、多額の借金を抱えたと信じ込む貧困妄想などがあり、本人は事実だと信じて訂正ができません。不安焦燥が強くなったり、体が固まって反応しなくなったりすることもあり、心身の安全のため入院治療が望ましい場合もありますが、本人に病識がなく拒否することも多いため、家族の同意による医療保護入院が検討されることもあります。治療は抗うつ薬に加えて抗精神病薬を併用し、改善しない場合は電気けいれん療法も検討されます。
妊娠中の治療では、抗うつ薬の減量・中断によって再発リスクが高まり、うつ病の再発によって妊娠の継続が難しくなることもあるため、必要最小限の量を継続することが多くなります。24歳以下の若年者では抗うつ薬投与による自殺関連事象が増加するというデータがあり、投与初期や増量時にはイライラや希死念慮の悪化がないか、家族も含めて注意深く見守ることが必要です。高齢者では代謝機能の低下により薬の効果や副作用が出やすいため、用量に注意が必要です。抗うつ薬の中止は、寛解後少なくとも半年、再発した方は2年以上の維持療法を経てから検討されます。
うつ病の80%以上に不眠、10〜20%に過眠がみられるなど、多くの患者さんに睡眠の問題がみられます。うつ病の初期から不眠がみられ、うつ病がよくなった後も残ることがあるため、まずはレストレスレッグス症候群や睡眠時無呼吸症候群など、別の睡眠障害がないかを確認します。夜のカフェインや飲酒、過度の昼寝、運動不足、長時間の入床、日光浴不足など、睡眠を悪化させる生活習慣を見直すことがまず指導されます。依存性の低いオレキシン受容体拮抗薬が睡眠薬として使われることも増えており、うつ病の改善とともに不眠も改善することが多いため、改善後の中止を見据えて薬を選ぶことが望ましいとされています。
1-10. 日常生活でできる工夫
運動や栄養バランスを整えることに加え、回復した当事者が実践した10の対処法なども、日常生活での工夫として参考になります。
うつ病の治療において、運動や栄養の重要性も示されてきています。運動については、有酸素運動がうつ病に効果があるとする研究があり、軽症うつ病では運動療法にも触れられています。週に3回以上、軽く息が弾む程度のウォーキングやゆっくりとしたジョギングを30分以上続けることが目安とされています。
栄養面では、ビタミンB群や葉酸、必須アミノ酸(トリプトファン・メチオニン・チロシン)、魚油に含まれるEPA・DHA、鉄分や亜鉛などのミネラルが不足しないよう、野菜・果物・魚を積極的にとるとよいとされています。
保険適応外ではありますが、有効性が指摘されている治療法として、光療法(ブライトライトを用いて朝2時間程度照射する方法。過眠・過食がある方や、冬に悪化する季節性のうつに向くとされる)や、EPA(魚の油の一種)を1日3〜4g摂取する方法(日本製のものはEPA量が少ない点に注意)などがあります。
回復した当事者自身が実践して重要だと考えた対処法として、①現実的な短期の目標を設定する、②決まった時間に自宅を出る、③ポジティブな記憶を思い出す、④うつになった責任を少しずつ他者に戻す、⑤スポーツに参加する、⑥うつ病を病気だと認識する、⑦治りが限界だと感じたら別の治療法を探す、⑧余暇活動に参加する、⑨日中と夜間の生活リズムを整える、⑩服薬の際に十分なサポートを得る、という10項目が紹介されています。薬を自己判断で中断せず、悪化や再発を防ぐためにも、疑問があれば主治医とよく話し合うことが大切です。
出典・参考文献
「対人関係療法でなおす うつ病 -病気の理解から対処法、ケアのポイントまで-」
「当事者・家族のためのわかりやすいうつ病治療ガイド」
「うつと仕事のQ&A」