💬 コミュニケーション・自己表現(アサーション等)
コミュニケーション・自己表現(アサーション等)について
コミュニケーション・自己表現(アサーション等)に関する記事(全3本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
自分も相手も大切にする自己表現の技法「アサーション」について、4つのテーマに分けてまとめています。自己表現の基本を知ることから、伝え方のコツ、怒りの伝え方、そして聴く力と自然なコミュニケーションまで、3冊の書籍をもとに紹介します。
このページは、平木典子氏・森田汐生氏・水島広子氏の著書を参考にしながら、沖縄中央病院の臨床現場での経験も交えて構成しています。より詳しい内容は、各書籍(出典は本文末に記載)をご参照ください。
1. 自己表現の基本を知る
1-1. アサーションとは
アサーションとは、自分も相手も傷つけずに自分の思いを率直に表現する技法です。
自己表現の「アサーション」といいますが、あまり聞きなれない言葉かもしれません。しかし、日常生活の中や職場、友人との過ごし方など、自分の生活の中で自己表現はかなり大きな比重を占めている大切な概念です。自分も相手も傷つけずに自己表現するのはとても難しいです。
例えば、レストランで注文したものと違うものが出てきた時、髪の毛が入っていた時、コンビニでレジ待ちの列に割り込みされた時、休日にゆっくり過ごそうと思っているところに友人から誘われて疲れているから行きたくないと思った時など、このような状況に出会ったとき、その場で自分の言いたいことを言い損なって無気力感を感じる人も多いです。逆に、強引に主張しすぎて気まずい関係になってしまったという人もいるでしょう。自分の思いを率直に表現しながらさわやかな人間関係を結ぶ方法が、アサーションという技法です。
1-2. アサーション度をチェックしてみよう
10個の質問に「いいえ」が5つ以上あれば、自己表現が苦手なタイプといえます。
以下のような質問に対して「いいえ」が多いと、アサーション度が低いとされています。
- 自分の知らないことや分からないことがあったとき、そのことについて説明を求めることができるか
- 援助を求めることができるか
- 異なった意見をもっているときにそれを表現できるか
- 適切な批判を述べることができるか
- 自分の行為を批判されたとき、受け答えができるか
- 不当な要求を拒むことはできるか
- 長電話や長話を自分から終えることができるか
- 行きたくない誘いを断ることができるか
- 押し売りを断れるか
- 注文したものが来なかったとき、そのことを言って交渉できるか
10項目のうち半分以上、5つ以上「いいえ」があれば自己表現が苦手といえます。
1-3. アサーティブな表現とは・3つのパターン
自己表現には「ノンアサーティブ」「アグレッシブ」「アサーティブ」の3つのパターンがあります。
自己表現には大きく分けて3つのパターンがあります。自分よりも他人を優先し自分のことを後回しにする「ノンアサーティブ(非主張的)」、自分のことだけを考えて他者の気持ちを考えない「アグレッシブ(攻撃的)」、そして両者の中間で自分のことをまず考えるが他者の気持ちにも配慮する「アサーティブ(適切な自己表現)」の3つです。
例えば、レストランでステーキをレアで注文したのに、間違ってウェルダンで運ばれてきたとします。ノンアサーティブなタイプは、友人に「もうこの店には来ない」と愚痴りながらも店員には何も言わず笑顔で対応してしまいます。アグレッシブなタイプは、怒って店員を呼びつけ、大声で「やり直してこい!」と言います。アサーティブなタイプは、店員に穏やかな口調で「レアで注文したけど、ウェルダンになっていますよ」と丁寧にはっきりと交換を頼みます。アサーティブな表現は、はじめはできなくても練習することでできるようになります。
大学生の例も見てみましょう。まじめで優秀なAさんは、試験直前に普段あまり授業に出ていないBさんからノートを貸してほしいと頼まれ困ってしまいました。ノンアサーティブなAさんは、不安がありながらも断れずに貸してしまい、後から「なんで貸しちゃったんだろう」と自分を責めます。アグレッシブなAさんは「今頃ノート借りようなんて常識知らずじゃないの」と強く言い捨て、あとで言い過ぎたと後悔します。アサーティブなAさんは「今からノート使うから今日は貸せないんだ。この次からもう少し早く言ってくれたら貸してあげられるよ」と丁寧にはっきりと伝えます。これが自分も相手も大切にした自己表現です。
自分の日頃の言動がアサーティブかどうかを知るには、家族、友人、職場の上司や同僚など、付き合いのある人からどのように扱われているかを振り返るとよいでしょう。軽く扱われたり利用されたりしていないか、特定の人とだけ自己表現できていないかを確認してみましょう。まずその状況に気づくことが大切で、そのうえで行動を変える努力をしていきます。断ったり自分の気持ちを伝えるのが苦手な人は「相手に嫌われたらどうしよう」と恐れていることが多いですが、ささいなことから練習を積み重ねていくと、自然にアサーティブで爽やかな自己表現ができるようになります。
1-4. アサーティブになるためのヒント
自信のなさや「断ってはいけない」といった思い込みに気づくことが、アサーティブになる第一歩です。
アサーティブな自己表現が苦手な人には、いくつかの共通した特徴があります。まず自分の気持ちが把握できておらず、自分の言いたいことがもやもやしてどう思っているのかわかりません。また、結果や周囲の目を気にし過ぎて、失敗を恐れすぎるとアサーティブになれません。
アサーションのスキルを単に習得していないだけという場合も多く、これは練習すればできるようになります。
アサーティブ(適切な自己表現)が苦手で断れない人は、自分に自信がないからということも多いです。特にノンアサーティブな人は、「断ることは良くない」「迷惑をかけてはいけない」「相手の気分を害するようなことは言ってはならない」と強く思い込むことで、適切な伝え方すらできなくなっています。ほかにも、頼まれごとを断るとき罪悪感を感じたり、人から大切にされないと自分が劣っているからだと考えたり、自分の希望は控えめにすべきだと思っていたり、疲れや落ち込みを表現してはいけないと思っていたり、何事にも失敗してはいけないと強く思っていたりする傾向があります。これらは必ずしも当たっているわけではありませんが、そのように思い込んでしまい、適切な自己表現ができなくなっています。まずは、こうした思い込みについて「必ずしもそうではない」と考えるように練習することが第一歩となります。
1-5. 私たちに認められている権利
私たちには尊重される権利、過ちをおかす権利、そして自己主張しない権利まで、5つの権利が認められています。
アサーティブが苦手な人のために、私たち一人ひとりに本来認められている権利という考え方が紹介されています。
- 私たちは誰からも尊重され、大切にしてもらうことができる(無理な要求が断れない場合や、人から大切にされないと自分が劣っているように感じる人へ)
- 私たちは誰もが、他人の期待に応えるかどうかを自分で決めて、自分でそれを表現し、その結果について自分で責任を持つことができる(自分の希望を控えめにすべきだと強く思っている人へ)
- 私たちは誰でも過ちをおかし、それに責任を持つことができる(失敗してはいけないと過度に心配している人へ)
- 私たちは支払いに見合ったものを得る権利がある(お店で間違ったものが来たり、髪の毛が入っていたりする場合は伝えてもよい)
- 私たちには自己主張しない権利もある(何でも自己主張すればよいというわけではなく、あえて何も言わないというアサーティブな選択もある)
2. 伝え方のコツ
2-1. 気持ちが伝わる話し方とは
同じ内容でも伝え方によって伝わり方は大きく変わり、アサーティブな話し方を身につけることが人間関係を円滑にします。
「アサーティブ」「アサーティブネス」というのがキーワードで、これは「相手も自分も傷つけない話し方」のことです。人は誰かに何かを要求するときや、逆に要求された時、言い方によって傷つくことが多いです。例えば共働きの夫婦で、二人とも遅く帰宅し家事がたまっているとします。
妻だけ早起きして家事をしているのに、夫は昼近くまでのんびりしているとき、「どうして私ばっかりなの?!」ときつく言って喧嘩になるか、言いたいことを飲み込んでしまうか。このどちらも適切な自己表現ではありません。アサーティブネスな表現なら、「お互い毎日の仕事ですごく疲れていると思うけど、今日はたまった家事を片付けたい。協力してくれないかな。◯◯は私がやるから、△△はやってほしいな」というように伝えられます。このような表現は家庭や職場、友人関係すべてに当てはまるため、身につけることが人間関係を円滑にします。
コミュニケーションでは「何を伝えるか」に重点が置かれがちですが、実はそれと同じくらい「どのように伝えるか」が大切です。「言っていることはわかるけど、そんな言い方ないでしょ」と相手の言い方や態度にカチンとくることはよくあります。同じ内容を伝えたとしても、伝え方によって全く別の伝わり方をしてしまいます。アサーティブネスな表現を身につけることで、言いたいことが気持ちよく伝わり、人間関係がギクシャクせずに済むようになります。アメリカでは小学校低学年の授業の中でアサーティブネスを学ぶといい、日本人は気持ちの表現が苦手と言われていますが、こうした表現の仕方を身につけると、日々のストレスも低下していくのではないかと考えられています。
コミュニケーションには、攻撃的タイプ・受身的タイプ・アサーティブな態度という3つのパターンがあるとされています(この3分類の基本的な考え方は「アサーティブな表現とは・3つのパターン」で紹介した3つの自己表現パターンとほぼ同じ内容のため、詳しくはそちらを参照してください)。
2-2. コミュニケーションの難しさ
あいまいさを良しとする日本の文化が、率直なコミュニケーションを難しくしている一因と考えられています。
人間関係には、相手にとって耳の痛いことを伝えなければならないこともたくさんあります。現在ではLINEやチャットツールなどで、直接言わずに済ませることもあるかもしれません。職場では嫌な人や話の通じない苦手な人ともつきあいを続けなければなりません。
また、日本にはあいまいさを良しとする文化があり、コミュニケーションをより難しくしています。日本人は具体的な説明をせずに、「もっとしっかりしてよ」「積極的に動いてよ」といったあいまいな表現を使うことが多いと言われています。「なるべく対立を避ける」「特に何も言わなくても相手が察してくれることを期待する」「相手と違う意見を持つことに居心地の悪さを感じる」といった文化もあり、思っていることをはっきり伝えたり、意見の対立を超えて対話を進めたりするコミュニケーションになじめない一因になっていると考えられます。
2-3. 相手に届く伝え方
一方的にならず、相手の状況を確認しながら一緒に問題を解決する姿勢が、伝え方の基本です。
アサーティブな伝え方とは、まず一方的にならないように気をつけ、自分が伝えたいことをシンプルに具体的にわかりやすく伝えたうえで、相手はどう思ったか、相手の状況を確認しながら一緒に問題を解決することを心がけるものです。例えば、後輩や部下の仕事が滞っており、それを促す場合を考えてみましょう。
まず「いまちょっといい?」と話す時間をもらい、なるべく顔を見て落ち着いて「この間の書類はまだできていないようだけど?」と相手の反応をみます。「これはとても大切な書類で、あなたの書類が出ないと全体のスケジュールが遅れることになって困ってしまうから、心配しているんだ」と大切なことと自分の心配を伝えます。「今、忙しい仕事を他にも抱えているの?」「どのへんが難しいところかな?」と相手の状況を確認しながら一緒に解決を考え、話し合って「もっと早めに確認しておけばよかったね。◯◯君も忙しいとは思うけど、この書類は急ぎなので◯日まで提出をお願いしたいけど、大丈夫?」と改めて依頼します。このような言い方は自然にはできないため、練習や意識が必要です。
2-4. 伝え方を支える4つの視点・Iメッセージ
「誠実」「率直」「対等」「自己責任」の4つを軸に、「私」を主語にしたIメッセージで伝えることが基本です。
コミュニケーションでは、伝える内容よりも話す人の態度や真剣さ・一生懸命さが相手の心を動かしていることがよくあります。そのためアサーティブネスには「誠実」「率直」「対等」「自己責任」という4つのキーワードがあります。
誠実とは自分の気持ちをごまかさず、自分にも相手にも正直になることです。率直とは気持ちや要求を相手に伝わる形で具体的に伝えることです。対等とは相手を見下したり自分を卑下したりしないことです。自己責任とは自分の行動によって起こる結果に責任を持つことです。
アサーティブネスとは、自分も相手も大切にして、自分の気持ちや依頼内容をはっきりと相手に伝える方法であり、最も大切なこととして「私」を主語にした”I”(アイ)メッセージで伝えることが基本となります。「みんなが困っているよ」など第三者を主語にせず、「私は、◯◯のことで心配しているよ」「私は、◯◯をしてほしいと思っているよ」というように、あくまで自分が感じること・してほしいことを伝えるのがIメッセージです。
2-5. アサーティブネスの基本テクニック
最初のひと言を真剣に伝え、語尾まではっきり言い切ることが、アサーティブな話し方のコツです。
最初のひと言では「とても大切な話があるので聞いてほしい」と真剣に伝えます。真顔で言うことで相手の聞く態度も変わってきます。語尾に気をつけ、自分の発言の最後まではっきりと言い、「これをしてほしいんだけど…」のように語尾が消えるような表現はしないようにしましょう。
相手がはっきりと物を言う攻撃的タイプで、途中で話をさえぎってくる場合は、「まずは最後まで聞いていただけませんか」としっかりと伝えるとよいでしょう。
2-6. 言葉以外のアサーション
視線や表情、声のトーンなど、言葉以外の要素もアサーションの大切な一部です。
アサーションには言葉以外の要素もあります。視覚的なものとしては、視線や表情、身振り手振りがあり、不愉快なことをされたら不愉快であるという合図を出してもよいし、相手の話を聞いているときはうなずいたり相槌を打ったりして聞いている合図を出すとよいでしょう。
感情を表現するときには、言葉と表情を一致させることが大切で、腹を立てているのにニコニコ笑顔で「そんなことされたら困る」と言っても相手に正確に伝わりません。
聴覚的なものとしては声があります。自信がない人は声が小さくなり、アグレッシブな人は大声になったりしますが、アサーティブな表現ではっきりと丁寧に伝えることが大事です。簡潔で率直な表現も重要で、「私が間違っていたかもしれませんが」などの余計な前置きではなく、「大切な話があるのですが」とこれから大切な話をするという前置きにするとよいでしょう。これら言葉以外のアサーションで大切なのは、自分のさまざまな感情をどのように表現するか、必要以上に相手に脅威や不愉快な思いを与えないで伝えられるかという点です。
2-7. 態度と声のトーンを一致させる
言葉だけでなく態度や声のトーンを一致させることが、気持ちを正確に伝えるために重要です。
言葉以外の態度もとても重要です。アメリカの心理学者メラビアンによる、いわゆる「メラビアンの法則」では、メッセージを受け取る人は、表情や態度を重視する人が55%、声の調子を重視する人が38%、話の中身を重視する人が7%という結果が紹介されており、非言語の部分が重要であることがうかがえます。
ただし、これは厳密には「好意・反感の感情が矛盾したメッセージを発した場合」に限定された実験結果とされており、どんな会話にもそのまま当てはまる法則というわけではない点には注意が必要です。とはいえ、「ありがとう」という言葉よりも、その態度やふるまいの方が相手に評価されるということは実感として理解しやすいでしょう。
「言葉のメッセージ」と「態度のメッセージ」を一致させることも大切です。例えば後輩に注意する時、微笑みながら「◯◯はしないでね」と言っても重大さが伝わりづらいです。反対に怒鳴ったり説教口調にする必要もありません。真剣な顔つきで相手の目をしっかり見て、「私は◯◯にたいへん困っています。これからはこのようなことはしないでほしいと思っているんです」としっかり言うことが大切です。目を見て話す、座る位置や距離に気をつける(何か注意する時は真正面より斜め向かいの方が威圧感が少ない)、真剣な時はニコニコしすぎない、といった点もアサーティブな態度・表情のポイントです。
3. 怒りの伝え方
3-1. Iメッセージで伝える怒りの表現
怒りは「私」を主語にしたIメッセージで伝えることで、相手を責めずに気持ちを届けられます。
アサーティブな自己表現の中でも、怒りを表現するのはとても難しいです。怒りの表現というと、腹を立てて怒鳴ったり相手を責めたりする激怒のイメージがありますが、怒りにも程度があり、その程度に合った表現方法があります。
怒りは、むりやり胸の奥に抑えても、逆に切れて相手を罵倒するなど極端な表現になりがちで、どちらもアサーティブネスとは言えません。「ムカつく!」「いい加減にして!」といった表現は相手を主語にした「Youメッセージ」であり、相手を非難する表現なのでうまくいくことはほとんどありません。
例えば、何かの行動をやめてほしいとき、ノンアサーティブな人は何も言えずにストレスをためてしまいます。アグレッシブな人は「なんでそんなことするんだ!お前は自分勝手だ!」と相手を責めます。アサーティブな人は「そのようなことをされると私は悲しくなります。私は困っているので、やめていただけますか」と、「私」を主語にした表現をします。人から怒鳴られてしまった場合は「そのような言い方をされるととても怖いです」、相手が待ち合わせに遅刻しても平然としている場合は「大丈夫だった?すごく心配したんだよ。これから遅れるときは連絡してね」というように伝えるとよいでしょう。アサーティブな表現は練習すればできるようになっていきます。
4. 聴く力と自然なコミュニケーション
4-1. 対人関係療法とコミュニケーション
対人関係療法の考え方に基づき、自分の役割と相手からの期待のズレを調整することがコミュニケーション改善の鍵です。
対人関係療法の専門家である水島広子氏の著書です。対人関係療法とは、元来は対人関係のストレスに対処することでうつ病を治していくという治療法ですが、現在ではうつ病だけでなく、さまざまなストレスに対処する方法として広められています。
自分に影響を与える人とのコミュニケーションを改善する考え方であり、自分の役割と他者からの期待のズレを調整することを目的としています。つまり自分のコミュニケーション方法の改善だけでなく、相手からの期待を調整してもらうことも一つの目的となっています。コミュニケーションに悩む多くの人が「相手からどう思われるか」を気にしており、この本は対人関係療法という精神療法をベースとしたコミュニケーション本として、こころの病を持っている方やストレスを受けやすい方におすすめできます。
4-2. コミュニケーション力とは
会話を盛り上げる必要はなく、自分らしいコミュニケーションの仕方を身につければ十分です。
コミュニケーション上手といえば、会話を盛り上げてその中心にいるようなイメージがありますが、必ずしもそうではありません。盛り上げるタイプ、反応が良い人、聞き上手な人、穏やかにその場にいれる人、人との会話にあまり興味がない人など、様々なタイプの人がいます。
無理して盛り上げ上手にならなくても、自分なりのコミュニケーションの仕方、自分の個性を反映させたコミュニケーションを身につければよいでしょう。
コミュニケーションとは、相手へ思いを伝えて自分を知ってもらうこと、相手に対する期待を伝えたり適切に調整すること、相手が自分に何を期待しているのかを知ること、時間を共有し関係性を深めることなどを指します。そうしたことを理解して自分なりのコミュニケーションを確立していけばよく、必ずしも面白いことを言ったりする必要はありません。
4-3. 「話す力」を身につける
うまく話そうとせず、沈黙を恐れないことが「話す力」の基本です。
まずは「うまく話さなくてもよい」「沈黙を共有してもよい」と思いましょう。沈黙が怖くて焦ったりせず、落ち着いていられるようになることが話す力の基本です。コミュニケーションには常に相手がいることを意識しましょう。
「相手からどう思われるのだろう」という心配もあると思いますが、相手が助けてくれる場合もけっこうあります。
話す時は「あなたは◯◯」ではなく「私は◯◯」と私を主語にして話すように心がけると、相手の心に踏み込んだり嫌な思いをさせたりせずにすみます。また、相手の話を聞いているとついアドバイスしたくなりますが、アドバイスは現状否定的な意味合いを持つことがあるため、本人が求めている場合に留めるのがよいでしょう。
4-4. 話を受けとめる力を育てる
落ち着いて話を聞いてもらえるという安心感は、アドバイスよりも問題解決に役立つことがあります。
話を受けとめるうえで重要なのは、落ち着いて話を聞いてもらえるという安心感が、話す側を支えるということです。聴くことは問題解決にも影響します。相手の話を丁寧に聞いていると、相手は落ち着いて話せる環境の中で、自分で気づきを得たり、消化できなかった感情を消化したりすることができます。
そうしているうちに、いつの間にか問題が解決されたり、大した問題ではなかったと気づくことも少なくありません。
人の相談を聞きながら「なんとかしてあげなければ」と考えると、一方的な意見を言ってしまったり、聞いている方が疲れきってしまったりすることもあります。何も考えずに相手の話を聴くだけにするとよいでしょう。自分の頭の中にも色々な考えが浮かび、その都度アドバイスしたくなりますが、頭に浮かんだ意見はいったん横に置いておいて、相手の話に集中して最後まで聴きましょう。アドバイスをする場合も「こうしたほうがよい」という言い方ではなく、「こういう情報もあるよ」「こういう場合もあるみたいだよ」といった言い方の方が相手にとっては受け入れやすいです。
4-5. 自然なコミュニケーションをしよう
誰とでもうまく会話しようとせず、自分と相手の関係性に応じた自然な距離感で構いません。
初対面や久しぶりの人と会う時に緊張するのは自然なことです。自然なコミュニケーションとは必ずしも「仲よさげに振る舞う」ことではなく、自分と相手の関係性によって変化するものであり、自分の特徴を説明できることもコミュニケーション力のひとつです。
誰とでも「うまく会話しよう」という思いは手放し、どうしてもウマが合わない人とは「必要最小限の会話」に留めれば十分です。もし相手が警戒している場合は、落ち着いて話を聞いてもらえるという安心感を伝える聴き方をしているうちに打ち解けてくることもあります。話している相手が素っ気ない場合は「相手にどう思われているのだろう」と心配になることもありますが、それは相手の問題かもしれないので、自分が誠実にしていれば、相手の領域と割り切ることも大切です。
4-6. 話すことが苦手な人へ
話すのが苦手なら「聴くこと」に集中する方が自然体でいられます。
話を受けとめる力を育てることが大切だとお伝えしたように、丁寧に話を聴くことは、落ち着いて話を聞いてもらえるという安心感を相手に届けることでもあります。「聴くこと」に集中すると自然体でいやすく、話すことが苦手な人は相手の話を「聴くこと」に集中する方が自然であり、それを伝えるのも上手なコミュニケーションのひとつといえます。
「私は考えが言葉になるのに時間がかかるタイプなんです。少しお時間ください」と言っておくと理解が得られやすいです。
4-7. ストレスフルなコミュニケーションへの対処
愚痴や上から目線の相手には、相手の考えを自分の領域に入れずに受け流す工夫が役立ちます。
愚痴ばかり聞かされて疲れてしまうときは、話を聞きながら、頭に浮かんだ意見はいったん横に置きながら聴くという方法が勧められています。「ああしたほうがよい」といったことは考えず、「この人はこう思っているのだな」くらいで話を聴き、相手が嫌な体験をしたという部分に共感して「それは大変だったね」と相づちを打てば、共感していることは伝わります。
「共感しながら一緒になって悪口は言わない」という選択肢もあります。
上から目線で話してくる相手に対しては、相手が言ったことに否定も肯定もせず、ただ聞き流すという「のれんに腕押し」的な対応があります。これらに共通するのは、相手の考えや意見を自分の領域に入れないということです。言いづらいことを伝えるときは、相手の人格と行動を区別することも大切で、遅刻をした部下に「遅刻ばかりしているから仕事ができないんだ」と言われると反発したくなりますが、問題となっている行動だけに注目して「遅刻は困るから、なんとか直してもらえないか。あなたなら何とかできると思うよ」とむしろ相手に依頼するような言い方の方がよい場合があります。頼みごとが上手にできない人は、相手の立場に立ちすぎてしまうことが多いですが、やって当然というような態度では相手が防衛的になり信頼関係が壊れてしまうこともあります。お願いをして、お礼を言い、できるだけほめるというパターンだと、次第に人の行動を変えていくことも多いです。口下手で話すのが苦手という人も、大した問題ではなく、聞き上手になればよいでしょう。話し上手な人より、真面目な聞き上手な人の方が信頼されることもあります。
4-8. 自分の思いが伝わるコミュニケーション(断り方・謝り方)
断るときは自分側の事情を誠実に伝え、怒らせてしまったときはまず謝ることが基本です。
相手に「ノー」と断りたいですが、相手を傷つけてしまうのが怖くて断れないという場合、相手の言い分に対して直接「ノー」を言わず、「本当はやりたいけど、自分側の事情でできない」ということを誠実に伝える方法が推奨されています。仕事の依頼であれば「今の自分には余裕(あるいは能力)がなくてできない。
すいません」と自分の事情を話して謝ります。上司から緊急で仕事を依頼された場合は、今の仕事とどちらが優先か確認し、「今、◯◯の仕事をしていますが、その仕事を優先して今の仕事を後回しにしてもいいですか?」と了承を得るとよいでしょう。
自分が原因で相手を怒らせてしまった場合は、相手が何に怒っているかわからなくても、まずは謝罪するのが無難です。自分に悪気がなかった場合や相手が誤解している場合でも、感情的に怒っている人は自分がないがしろにされたと思っていることが多いので、「気分を害したことに」対して「すいません」と謝り、そのうえで何があってそんなに怒っているのか、こちらにどんな不手際があったのかを聞き出すとよいでしょう。
4-9. 集団でのコミュニケーション
グループの中では無理に話に割り込まず、うなずきや相づちだけでも十分に参加できます。
グループでのやりとりをスムーズにしたい人、大勢の前で緊張してしまう人、どのタイミングで入っていったらよいのかわからないという人も多いです。自分が話す場合は「自分はどう思われているのか」「ちゃんと話せているのか」と自分に意識を向けるのではなく、「伝わっているか」と一人ひとりにアイコンタクトをするつもりで話すとよいでしょう。
グループの中では聴くと話すがランダムになり、いつ自分が話していいのかわからないという人もいますが、会話に割り込むのが苦手な人は、相手の話を聞いてうなずいたりリアクションをとるだけで、無理に話に割り込まなくても大丈夫です。ただし一人だけ別のところを見ていると「話聞いているの?」と言われてしまうので、話している人を見て、会話の区切りで相づち・うなずきをするとよいでしょう。話をふられてとっさに話が出てこない人は、「話が苦手なので、お時間ください」と言えば大丈夫です。一人ひとり個性にあった自然なコミュニケーションを身につけていきましょう。
出典・参考文献
「改訂版 アサーション・トレーニング―さやかな〈自己表現〉のために―」
「気持ちが伝わる話しかた」
「対人関係療法のプロが教える 誰と一緒でも疲れない「聴き方・話し方」のコツ」