🧯 アンガーマネジメント
アンガーマネジメントについて
アンガーマネジメントに関する記事(全2本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
怒りという感情との付き合い方を4つのテーマに分けてまとめています。怒りの正体を知ることから、怒りの背景にある考え方の見つめ直し方、怒りを鎮めてうまく伝える実践法、そして周囲の人ができる対応まで、ADHDの特性を踏まえた工夫もあわせて紹介します。
このページは、水島広子氏・高山恵子氏の著書を参考にしながら、沖縄中央病院の臨床現場での経験も交えて構成しています。より詳しい内容は、各書籍(出典は本文末に記載)をご参照ください。
1. 怒りの正体を知る
1-1. ムカッとすることは、だめなことではない
怒りは自分を守るための自然な感情であり、まずはその役割を知ることが怒りをコントロールする第一歩です。
「つまらないことでムカついてしまう」「ついイライラしてしまう」「自分の怒りがコントロールできない」――こうした「怒りにコントロールされてしまっている」状況から抜け出したい方に向けた一冊です。「本当は冷静でいたいのに」「本当はやさしくしたいのに」というときは、自分の行動が怒りにコントロールされてしまっている状態です。
怒りとはコントロールするものであり、怒っていないふりをするものではありません。怒りがコントロールできるようになれば、人生の質が全体的に高まり、心穏やかな時間が増えていきます。
あらゆる感情には意味があります。不安は安全が確保されていないことを知らせ、悲しみは「大切なものを失った」ことに気づかせ、傷ついた状態から普通に戻るプロセスをたどらせてくれます。怒りも感情の一つであり、自分の身を守るための働きがあります。ムカッとすることで「何かひどいことをされた」と気づき、それを取り除こうとする心の働きなのです。怒りはとても不快な感情ですが、何か解決したい問題があるということでもあります。こうした怒りの役割を知ることが、怒りをコントロールするための第一歩となります。
しかし、「何かひどいことをされた」と怒り続けることは、結果的に自分の人生の質を落としてしまいます。怒りが収まらない場合、相手が適切な対処をするのをただ待っていてもいつまでも状況は改善しないことが多く、怒りにまかせて怒鳴ったり殴ったりすることでうまくいくこともほとんどありません。怒りによって対処すべきことがあると気づいたら、怒りを手放して適切な対処法を考えていったほうがうまくいきます。
1-2. 腹が立ってしまう理由
腹が立つ理由の多くは「予定が狂った場合」と「心が傷ついたとき」の2つに分けられます。
腹が立つ理由の一つは「予定が狂った場合」です。あとで食べようと冷蔵庫に入れておいたデザートが家族に食べられていた、買い替えたばかりの携帯がすぐ壊れた、といった場合は、瞬間的に「やられた」と防衛反応として怒りが出ます。
通常はその反射的な怒りも次第に冷静になり「まあ何とかなるだろう」と思えるまで続きます。怒りをただぶつけるだけではクレーマーになってしまうので、「自分の予定が狂ってしまって困っている」と考え方を変えてみると怒りを手放しやすくなり、相手との交渉も冷静にできるようになります。
もう一つの理由は「心が傷ついたとき」です。自分のミスではないのにクレームをつけられた、掃除しようと思っていた時に「掃除しなさい」と言われた、といった相手からの批判的な言動で傷ついた場合は怒りが大きくなる傾向にあります。このタイプは過去のことを思い出したときにも感じる怒りで、自分の傷が癒やされたと感じると手放すことができます。
1-3. ADHDと怒りの関係
ADHDの衝動性の特性から、怒りをコントロールしづらいと感じる人がいます。
ADHD(注意欠如・多動性障害)は発達障害の1つで、子どもの頃から症状が現れ、大人になっても残ることがよくみられます。注意の持続困難(不注意)、活動性の高さ(多動性)、強い衝動性という3つの主症状のうち、いずれかが現れるのがADHDであり、12歳までに症状が明らかとなります。
ADHDの衝動性の症状として「怒りがコントロールできない」という人がいますが、すべての人にあるわけではありません。中には怒りを爆発させて気まずい思いをしたことがあるという人もおり、そのような方に向けて書かれたのがこの書籍で、一般の人でも活用できる内容になっています。不得意なことに集中できない特性のため物事がうまく進まないことがあり、それに対して「できない自分」への怒りや、叱責からの周囲への怒りでイライラし、怒りを爆発させ、その後罪悪感にさいなまれるというパターンに陥りやすいです。怒りは自分と周囲の人の幸せな時間をむしばむことがあり、それを避けるためにアンガーマネジメントを練習して穏やかな時間を増やしていきましょう。
1-4. ADHDの特性と怒りやすさ
衝動性の強さによって、他人を怒らせやすくなったり自分自身が怒りっぽくなったりすることがあります。
ADHDの人すべてが怒りのコントロールができないわけではありません。ADHDの特性には不注意・多動・衝動性があり個人差がありますが、衝動性の特徴が強いと怒りのコントロールが難しい場合があります。思いついたらすぐ行動してしまうため周囲の反発を招きやすく、対人関係の構築が難しい場合もあります。
他人を怒らせやすい特性としては、約束や締め切りをうっかり忘れる、遅刻が多い、ケアレスミスが多いといったものがあります。悪気はありませんが、集中力が保てずすぐほかのことを始めてしまい、約束自体を忘れてしまうのです。怒りっぽくなる特性としては、せっかちで結論を急ぐ、理不尽だと受け取る、といったものがあり、周囲のペースに合わせることが苦手で、思ったとおりにならないと理不尽と感じて怒りの要因となります。
2. 怒りの背景にある考え方を見つめ直す
2-1. 「本当に被害はあるのか」を考える
「本当に被害にあっているのか」を考え直してみると、怒る必要がなくなることも少なくありません。
怒った原因を取り除くだけでなく、「そもそもその原因は怒りの対象となるのか」をよく考えてみることが、いわゆる「受け止め方を変える」ということです。自分は本当に被害にあっているのかをよく考えてみるとよいでしょう。
例えば、何かをすぐ決めつける人から「あなたって優柔不断だよね」と一方的に言われて傷ついた場合、一方的に言われたと思えば怒りを感じるものですが、別の見方をすれば「一方的に決めつけがちの人はストレスフルな生活をしている人」という気の毒な側面に気づけるかもしれません。よく考えてみると、怒る必要がなくなることも少なくありません。
怒りの原因が「心の病気」によるものであることもあります。例えば躁うつ病の場合、些細なことでイライラしやすくなったり、怒鳴ったりすることが多くなります。この場合はきちんと治療を受けることが必要です。まずは怒った自分に気づいて、「大変な目にあったんだね」と自分に優しい言葉をかけて、現実を受け入れていきます。ただし怒りをぶつけても問題は解決せずかえってこじれるので、身体を動かしたりその場を離れたりすることも大切です。
2-2. 「期待していたこと」とのズレに気づく
怒りの背景には、知らず知らずのうちに相手に期待していることとのズレがあります。
怒りは対人関係の中で出てきますが、その背景には多くの場合、「こうしてほしい」という自分の期待と、実際の相手の行動とのズレがあります。人は知らず知らずのうちに相手に対してこうあってほしいという期待を抱いており、その期待どおりにならないと怒りが出てきます。
怒りを感じたら、「自分は相手に何を期待しているのか」「その期待は相手にとって現実的なものか」「その期待は相手にきちんと伝わっているのか」「その期待は相手に受け入れられるものか」「受け入れられない場合はどのように期待を見直せばよいか」を確認してみるとよいでしょう。頭が混乱している場合は、紙に書き出してまとめてみるのもよいでしょう。
こうした期待とのズレは、日常の様々な場面で怒りを生みます。例えば仕事の愚痴を話しても共感してくれないという不満は、女性は話を聞いて共感してほしい一方、男性は解決のアドバイスをしなければと思っている、というすれ違いから生まれます。「愚痴を聞いて共感するだけでよい」と自分の期待をはっきりさせると解決することが多いです。共働きで「残業ですごく疲れているのに、夫が家事を手伝おうとしなくてムカムカする」というケースでも、「相手にそれが伝わっているか」がチェックポイントになります。「言わなくても態度でわかるでしょ」と、実際には伝えていないことが多いのです。
「言いにくいこと」を伝える方法もあります。貸したお金や本をなかなか返してくれないので腹が立つというケースでは、こちら側は「言われなくても速やかに返してほしい」と思っていますが、相手は「言われたら返す」と思っている可能性があります。ダイレクトに言うのではなく、「今月お金がないから、この前のお金返してもらえる?」といった言い方をし、期待していることを具体的に伝えるとよいでしょう。
2-3. 相手にも相手の事情がある
相手にも事情があると考え、関係の深さに応じて期待とのズレをどこまで埋めるべきか見極めましょう。
「生意気な態度が鼻についてイライラする」という場合も、相手には対人関係での不安が強い、厳しい家庭環境で育った、発達障害のため全体のバランスをみることができない、といった事情があるかもしれません。期待とのズレを埋めるほうがよい相手とそうでない相手もあります。
すべての相手とそれをやる必要はなく、家族・恋人・親友など距離の近い相手とはなるべくズレをなくすことが望ましいですが、仕事上やある特定の状況だけの関係では、支障がなければズレていてもよいでしょう。「陰口を言う同僚が許せない」といったケースでも、業務上支障がなければ「まあ関係のないこと」として受け流すこともできます。どうしても気になるなら、家族や友人など身近で信頼できる人に相談してみることもできます。
2-4. 「被害者」になるのをやめる
自分は本当に被害者なのかを検証する習慣が、無駄な怒りを手放す助けになります。
怒りは「ひどいことをされた」と思ったときに出てくるものであり、予定が狂ったり心の傷となったりすることは被害者意識のもとになります。怒ってしまったときは、その怒りをどうするかという以前に、そもそも自分は本当に被害者なのかを検証してみると、無駄に怒らずにすむこともあります。
自分のストーリーを確信せず、手放す習慣を心がけましょう。「私は粗末にされた」という考えが浮かんでくるのは仕方ありませんが、「そう断言できるほどの証拠はあるのだろうか」と考える習慣をつけるとよいでしょう。確定できることはほとんどないと気づいてくると、確実でないものを断定して怒ることが不毛だと気づき、怒りも保留できるようになってきます。イライラしたら深呼吸して、被害者モードから脱するように習慣づけましょう。
2-5. 怒りと自分自身を分離してみる
「怒りという感情」と「自分自身」を分けて捉えることが、怒りを鎮める第一歩になります。
ADHDの人に対しては、「怒りという感情」と「自分自身」を分離して、「自分は今怒っている」と気づくことの大切さがよく指摘されます。呼吸の乱れや体のほてり・緊張を自覚し、体をリラックスさせる練習を重ねることで、リラックスモードに持っていけるようになっていきます(この「怒りと自分を切り離して客観視する」という考え方は、「『被害者』になるのをやめる」でも触れている視点と共通するため、あわせて参照してください)。
2-6. 怒りの「タネ」をみつけよう
怒りは出来事そのものではなく、出来事への解釈の仕方にタネがあることも多いです。
怒りはもともと、危険や攻撃に対して身を守るための自然な反応です。しかし現代では怒りを爆発させると結果的に自分の居場所がなくなることが多いため、アンガーマネジメントが必要となります。怒っているときには怒る原因があると思いがちで、実際にそうした場合もありますが、怒りをコントロールできない人は、出来事に対する解釈の仕方そのものに怒りのタネがある場合があります。
つまり、考え方のクセとして怒りやすい考え方を持っている場合があり、怒りっぽい人はできごとを勘違いしたまま解釈していることもあります。
ADHDの人は感情のコントロールや客観視が苦手なことも要因となります。優先順位がわからない、本音をつい言ってしまう、他の仕事をすぐに覚えられないなど、失敗が続くと自分に対して怒ってしまう人もいます。怒りの前に何を感じていたか、何を考えたかを手がかりにするとよく、不安・期待や希望・悲しみ・恨みといった感情が背景にあることが多いです。また、自閉スペクトラム症を合併していると、想定外のことでパニックになりやすい人もいます。
3. 怒りを鎮め、うまく伝える実践法
3-1. 怒りを大爆発させない応急処置
怒りのサインに気づいたら6秒数える、深呼吸をするなど、その場でできる応急処置があります。
カッと頭に血が上る、突然わきあがる強い怒り――そうした怒りをそれ以上大きくしない、大爆発させないための「最初が勝負」のとっさの対処法があります。怒りに気がついたら6秒数えます。怒りは6秒我慢すると治まるともいわれているので、怒りのサインをキャッチしたら、手を使ったりおでこに手を当てながらまず6秒数えます。
ゆっくり水を飲んで深呼吸をする(短く吸って長く吐く、目安は4秒吸って6秒吐く)のも効果的です。
心を鎮める言葉(セルフトーク)を頭の中で唱えるのもよいでしょう。「私は大丈夫、落ち着いて、誰も悪くない、コントロールできる!」といった言葉です。良いときのイメージを、音や味など具体的に思い出せるようにして心を満たし怒りを追い出す方法や、その場を離れて音楽など他のことに集中して気持ちを切り替える方法もあります。怒ったこと自体をすぐに謝ることや、怒りで固まった心と体をストレッチでほぐし血流をよくすることも役立ちます。
3-2. 相手とのコミュニケーションの仕方
決めつけを手放し、「私」を主語にして要求ではなく依頼として伝えることが、良好な関係につながります。
まず、相手への「決めつけ」はやめましょう。急な仕事でデートをキャンセルされた場合、「自分勝手」「仕事人間」と決めつけてしまうと、申し訳ないと思っている本人もカチンときます。「だいたいいつもあなたは…」と普段の行動に一般化してしまうとケンカになります。
決めつけではなく、「どうしてほしいのか」を伝えましょう。「あなたって◯◯」ではなく「私は、◯◯」と私を主語に伝えると、相手も次の埋め合わせをしようという気持ちになりやすいです。
「要求」ではなく「依頼」することも大切です。自分の要求だけをしていると相手を追い詰めてしまうので、自分の事情を話して協力を依頼するのがよいでしょう。「◯◯してくれるとありがたいんだけど」という距離感がよく、「必ず埋め合わせしてよね」など要求すると、相手は防衛的になりケンカになりやすいです。
3-3. 伝え方を変えてみる
同じ内容でも言葉の選び方次第で伝わり方は大きく変わり、責める口調を避けることが大切です。
注意やアドバイスをするときは、責める口調にならないよう、ゆっくり穏やかに言うことが大切です。言い方を工夫することで、伝わり方が大きく変わります(「私」を主語にした伝え方の詳しいコツは「相手とのコミュニケーションの仕方」も参照してください)。
- 「もう、いい加減にしてよ」⇒「大変だったね、次はどうしようか」
- 「前にも言ったよね?」⇒「もう一度確認しておこうか」
- 「そんなやり方、おかしいよ」⇒「ちょっと変わってるけど、それでうまくいきそう?」
- 「なんでできないの?」⇒「どこでつまずいてる?」
- 「そんなつもりじゃなかったでしょ」⇒「あなたにはそう聞こえたんだね」
3-4. 特性を変えず、やり方を変える
特性そのものを変えるのは難しくても、怒りへの対処のやり方は練習によって変えていくことができます。
怒りの感情自体は自然な反応ですが、爆発させないことが大切であり、怒りに流されない自分になるためあきらめずに取り組んでいきましょう。自分自身の特性を変えるのは難しいですが、無意識のうちに繰り返していたクセややり方は、意識すれば変えることができます。
不注意・多動・衝動性といったADHDの特性そのものは変化させにくく、薬物療法も有効です。一方で、怒りの応急処置を行う、自分自身のアンガーログ(怒り日記)をつける、怒りやすい考え方の思い込みに気づいて修正する、怒りの前の感情に気づいて口に出す、「なんで」と言わない、といったやり方は変化させることができます。特性を変えるのは難しくても、やり方は練習すれば工夫して怒りを減らせるのです。
3-5. アンガーログをつける
怒りや落ち込みを記録する「アンガーログ」は、自分の状態にいち早く気づく力を育てます。
アンガーマネジメントの基本的なやり方は「自分の状況をみつめ、把握すること」であり、怒りすぎる自分を認識する練習です。客観的にみて一歩引いて怒りと自分を分離し、まずは怒っている自分に気づく、「怒りに我を忘れる」状態から抜け出すことが最初は最も難しいですが、慣れてくると自分の状態をいち早くキャッチできるようになります。
これは怒り以外にも不安や気分の落ち込みなどにも応用できる技術です。
イライラしたこと、腹が立ったこと、気分が落ち込んだことなどのネガティブな気持ちを記録するのがアンガーログです。最初は記録するだけでよく、分析はあとになってからでもよいでしょう。「いつ、どこで」「どんなことが」「そのとき自分が思ったこと」「どんな感情をもったか」「怒りのレベル・10点中何点か」を記録していきます。
3-6. アンガーログを気づきのヒントにする
アンガーログを振り返ることで、怒りのきっかけや自分の思い込みのパターンが見えてきます。
アンガーログからは、怒りのきっかけとなる時間帯・場面・相手や、小さいイライラがたまって爆発するのか馬鹿にされたと感じたときに怒るのかといった行動パターン、そして自分の価値観がわかってきます。自分が当たり前と思っていることや「こうあるべき」と思っている基準が、他人とずれていることも多く、相手に対する期待と自分をしばる思い込みが乖離すると怒りが出やすくなります。
「すべき」と思っているのは自分だけかもしれない、「せっかく」相手が望んでいるとは限らない、「はず」自分と他人は違う、というように、思い込みを問い直してみるとよいでしょう。怒りのコントロールと向き合うためには、好きなことやいいイメージを普段から育てて「資産」にしておき、いいイメージで怒りを打ち消すことも大切です。
4. 周囲にできること
4-1. 「怒りに巻き込まれない」ための対応
衝動的な怒りには距離を取ってやり過ごし、本人が冷静になってから話し合うことが大切です。
衝動性の強いADHDの人は突然怒り出しますが、治まればケロッとしていることが多いです。「そういう人なんだ」と周囲の人はやり過ごせばよいでしょう。大爆発しているときには嵐が過ぎ去るのを待ち、距離を取ることも大事です。
本人が冷静になったところで改めて話し合うようにし、怒りをぶつけ返さないことが重要となります。
出典・参考文献
「「怒り」がスーッと消える本」
「イライラしない、怒らない ADHDの人のためのアンガーマネジメント」