🔗 依存症(アルコール・ギャンブル・ゲーム)
依存症(アルコール・ギャンブル・ゲーム)について
依存症(アルコール・ギャンブル・ゲーム)に関する記事(全5本)を1ページにまとめました。目次から気になる項目へジャンプできます。
このページでわかること
アルコール・ギャンブル・ゲームへの依存は、いずれも「自分の意思ではコントロールできなくなる」脳の病気です。対象は異なっても、否認しやすいこと、家族が先に気づくことが多いこと、引き金(トリガー)を避ける生活の工夫や自助グループ・認知行動療法などの治療によって回復を目指せることは共通しています。
1. アルコール依存症
1-1. 基礎知識
アルコール依存症は飲み方を自分でコントロールできなくなる病気で、断酒を中心に解毒期・リハビリ期・アフターケアと段階的な治療が行われます。
アルコール依存症は、お酒の飲み方を自分の意思だけではコントロールできなくなる病気です。飲む時間や量、場面を自分で決められなくなり、生活のなかで飲酒が最優先になってしまいます。「気持ちの持ちよう」でどうにかなるものではなく、その人の意志が弱いから起こるわけでもありません。
目安となる特徴には、飲みたいという欲求が強いこと、お酒が切れると体に症状が出ること(離脱症状)、数時間おきに飲み続けてしまう連続飲酒、以前と同じ量では酔えなくなる耐性、飲酒が生活の中心になってしまうこと、そして明らかに悪い結果が出ているのに飲酒をやめられないことなどがあります。
具体的な症状としては、数時間おきに飲み続ける連続飲酒(いわゆる迎え酒)や、お酒が切れたときの発汗・手の震え・イライラ・不眠・動悸・食欲不振・幻覚といった離脱症状が代表的です。本人が問題を認めない「否認」の傾向が強く、家族など周囲の人のほうが先に異変に気づくことも珍しくありません。飲酒が長く続くと、脳が萎縮して物忘れや感情の波が出やすくなるほか、肝臓の障害や膵炎などの身体的な合併症、うつ病やパニック障害の併発、自殺のリスク上昇(自殺者のおよそ2割にアルコールが関係しているともいわれます)にもつながります。
アルコール依存症が明らかになるきっかけは、家族が困って相談に来る、夫婦喧嘩などの人間関係のもつれ、暴力事件や交通事故といったトラブル、うつ病やパニック障害の合併がわかったときなど、さまざまです。相談先も困りごとの内容によって変わり、暴言・暴力がある場合は警察や法律の専門家、精神保健福祉センター、保健所が、体の不調であれば内科、心の不調であれば精神科が窓口になります。
治療につなげる際は、本人に治したいという気持ちがあるかどうかで対応が分かれます。本人にその意志があれば医療機関や保健所、自助グループへとつなげますが、意志がまだない場合でも、関係機関への相談を続けながら、家族だけでも自助グループに参加するという形で支援を続けることができます。家族の側にも、世話を焼きすぎる、問題を隠してしまう、家庭内でのトラブルが絶えない、再発を何度も経験するといった傾向が出やすく、家族自身の関わり方を見直すことも回復を後押しします。
治療のゴールは断酒です。離脱症状が出るため、初期には薬による治療が欠かせません。おおまかな流れとしては、最初のおよそ1か月にあたる解毒期で離脱症状やせん妄、不眠への対応を行い、続く2〜3か月のリハビリ期でアルコール依存症について学びながら病気であるという認識を深め、抗酒薬の服用や自助グループへの参加を通じて仲間とのつながりをつくり、社会生活への復帰に備えます。その後のアフターケアは一生涯続くもので、通院と自助グループへの参加を継続しながら、断酒を保っていくことになります。
1-2. 診断後の心理と回復プロセス
「節酒でよいのでは」という気持ちは自然な反応ですが、脳の変化した依存症は節酒より断酒のほうがやさしく、引き金への対処と断酒後1年間の5段階を知ることが回復の助けになります。
アルコール依存症と診断され、断酒をすすめられると、「そこまでしなくても」「前のようにコントロールして飲めればいい」「節酒のコツを身につけたい」と感じる人が少なくありません。しかし、この病気は自分の意志で飲酒量を管理できなくなる、脳の病気です。
大量の飲酒を続けることで脳の構造そのものに変化が生じ、「やめたくてもやめられない」状態になってしまいます。よくたとえられるのが「ブレーキの壊れた車」です。止まっている分には問題なくても、いったん走り出すと何かにぶつかるまで止まれない――つまり飲み始めるとブレーキが利かなくなり、トラブルが起きるまでやめられない人が多いのです。このため「量を減らすだけ」は完全にやめることよりもかえって難しいとされ、いったん変化した脳の状態は元に戻らないというのが、この病気の厄介なところです。
「自分にできるだろうか」「一生やめ続けるなんて考えられない」と感じるのは自然な反応です。そんなときは一生分をまとめて考える必要はなく、「今日一日だけ」やめることに意識を向けましょう。断酒会の「一日断酒」、AA(アルコホーリクス・アノニマス)の「今日一日」という言葉も、この考え方に基づいています。すべてを投げ出したくなる前に、まずは今日という一日を大切にしてみることです。断酒を続けたい人には、断酒会やAA、医療機関のアルコールミーティングといった自助グループへの参加がすすめられます。
「自分は依存症ではない」「お酒でトラブルになったことはない」「コントロールして飲んでいる」というのは、依存症の人によくある本音です。しかし、些細なことで怒りっぽくなる、家族や友人に強い口調でぶつかる、手を上げたり物を壊したりしたことがある、飲んだ翌日に後悔することが多いといった様子があれば、実際にはコントロールを失っているサインといえます。習慣的に飲酒する人は、何らかの犯罪に関わる確率がおよそ7倍、暴力犯罪に関わる確率はおよそ10倍まで高まるといわれます。精神疾患を抱えている場合はさらに影響が大きく、幻覚や妄想の悪化、薬物依存の後遺症や不眠の悪化、睡眠薬や治療薬の効きにくさ、衝動のコントロール低下といった問題が重なりやすくなります。
飲酒への欲求は、特定の「引き金」に触れることで自動的に呼び起こされます。動物実験で見られる条件反射のように、飲酒にまつわる状況に接するだけで、心拍数の上昇や脳血流の変化といった体の反応とともに「飲みたい」という気持ちが湧いてきます。夜という時間帯、金曜・土曜のような休前日、一人でいるときや飲み仲間といるとき、孤独感や寂しさ・悔しさといった気分などが、代表的な引き金として知られています。過去に引き金に触れても飲まずに済んだ経験(誰かに話を聞いてもらえた、別のことで気が紛れたなど)を思い返しておくことも役立ちます。
お酒をやめ続けるには、「決意する」「意志を強く持つ」という気持ちだけでは足りません。生活のリズムを整え、無理のないスケジュールを組み、引き金そのものを避け、湧いてきた欲求への具体的な対処法を持っておくことが欠かせません。引き金から欲求、そして飲酒へと至る流れは驚くほど早く進むため、迷っている間に欲求はどんどん膨らんでしまいます。「危ない」と感じた瞬間にすぐ手を打つことが大切で、輪ゴムを弾くなどの合図とともに考えを切り替える方法、翌日の予定や家族のことを思い浮かべる、「今日は考えない、明日考えよう」と先延ばしにする、腹式呼吸などのリラックス法、誰かに電話して話す、といった対処が知られています。グラスや酒のつまみ、音楽、特定の場所や服装、行動、人物など、お酒と結びついたものに触れるだけでも脳が反応してしまうため、そうしたものを手放したり、特定の場所を避けたりして、生活の中から飲みたくなる状況そのものを減らしていくことも大切です。
アルコール依存症には、統合失調症やうつ病、双極性障害、パニック障害など他の精神疾患が重なることもあり、これを「重複障害」と呼びます。精神疾患のある人がアルコールを乱用すると、不眠やイライラ、不安の悪化、幻聴や妄想の出現といった形で症状が悪くなることがあります。こうした症状を紛らわせようとお酒に頼る人もいますが、一時的に和らいでも酔いが覚めればかえって悪化してしまいます。実際に、症状を落ち着かせるつもりで飲んでいたビールがきっかけで治療薬を飲まなくなり、病状が再発して入院に至ったという体験談もあり、症状を自己判断でお酒によって抑えようとすることの危うさがうかがえます。
断酒を始めてからの最初の1年間は、およそ5つの段階をたどるといわれています。最初の2週間ほどの「緊張期」は、離脱のつらさや気疲れ、孤独感から不眠になりやすい時期で、無理をせずしっかり休んで生活リズムを整えることが大切です。15〜90日ごろの「ハネムーン期」は体調が上向いて自信が出てくる時期ですが、この先に訪れる停滞期に備えて生活スケジュールを固め、自助グループへの参加を進めておくとよいでしょう。91〜180日ごろの「壁期」では、刺激のなさから気分が沈み、周囲の助言がうるさく感じられたり、薬をやめても大丈夫では、という気持ちが出てきたりしますが、これは誰もが通る道であり、体を動かして時間を埋めながら自助グループへの参加を増やすことが助けになります。181〜270日ごろの「適応期」に入ると退屈さが薄れ、飲酒欲求も落ち着いてきて、お酒のない生き方を前向きに考えられるようになります。271〜365日ごろの「解決期」では、飲んでいた頃が遠い昔のように感じられる一方、社会復帰にともなって飲みの誘いが増える時期でもあるため油断は禁物で、規則正しい生活と自助グループへの参加を続けることが引き続き重要です。
断酒生活を続けるうえでは、孤立やひきこもりを避けることも欠かせません。飲酒が続くと外出がおっくうになり、「誰にも理解されない」という孤独感からかえって飲みたくなってしまうことがあります。一人の時間を減らし人とのつながりを保ちながら、通院や自助グループ、仕事、作業所、デイケアなど日々の予定を具体的に組んでおくことが回復を支えます。「どこにも行きたくない」「誰にも会いたくない」と感じたときこそ、そのままにせず、まずは予定していた場所に足を運んでみる、主治医やスタッフに今の状態を伝えてみることが大切です。体を動かす、アルコールミーティングや断酒会に参加する、支援者に電話で相談する、お酒を飲まない仲間と話す、意識的に休息をとるといった対処法も、お酒から距離を置く助けになります。
1-3. 適正な飲酒量・お酒との付き合い方
1日の適量はビール500ml程度が目安とされ、酒好きとアルコール依存症の境界はなだらかに移行するため、WHOの6項目の診断基準や飲酒チェックツールが見極めの参考になります。
「市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン」は、厚生労働省の研究班がまとめた市民向けの小冊子で、インターネット上で無料公開されているほか、書籍としても入手できます。お酒に関する基礎知識と、よくある質問への回答というQ&A形式で構成されています。
国内で治療が必要とされるアルコール依存症の人はおよそ107万人と推計される一方、実際に医療機関を受診している人は約4万人にとどまり、受診率はわずか3%程度とされています。一方アメリカでは受診率が24.1%と報告されており、そのうち約4割が飲酒運転での検挙をきっかけに受診に至っています。日本では平成14年の道路交通法改正以降、飲酒運転は減少してきましたが近年は下げ止まっており、その背景にアルコール問題があるとの指摘もあります。アメリカでは行政・司法・医療が連携した対策が整っており、裁判所が中心となって検挙者に働きかけ、2回目の検挙者にアルコール依存症の治療プログラムを課すことで再犯率をおよそ3割減らしたというデータもあり、治療につなげる仕組みの有効性がうかがえます。
「酒は百薬の長」という言い回しは、いまからおよそ2000年前の中国にルーツがありますが、もともとは当時の政府が酒税を集めるために使ったキャッチフレーズであり、医学的な裏付けのある表現ではありませんでした。現代の医学ではそうした位置づけはされておらず、世界保健機関(WHO)は「お酒は60種類を超える病気の原因であり、200種類以上の病気に関連している」と警告しています。適量の範囲内であれば飲酒しない人より死亡率が低いというデータもある一方、適量を超えて飲む量が増えるほど死亡率は上昇していくため、依存症の診断がついた場合は断酒が必要になります。多量飲酒は肝機能障害、依存症そのもの、認知症、食道がんなどのリスクを高めることも知られています。適量の目安は、1日あたりビールなら500ml、日本酒なら1合、焼酎なら0.5合、ワインならグラス2杯程度で、これは純アルコール10gを「1ドリンク」とし、1日2ドリンクまでという基準にもとづいています。お酒に弱い体質の人(飲むとすぐ顔が赤くなる人)や女性、65歳以上の人はこれより少なめが望ましく、目安はさらにその半分の1ドリンク程度です。週に2日は休肝日を設けることも大切です。
お酒は基本的に脳のはたらきを抑制する物質です。個人差はありますが、飲酒量が増えるにつれて血中アルコール濃度が上がり、脳の各部位の機能が段階的に低下していきます。酔い始めは脳の抑制機能(いわゆるブレーキ)が緩み、はじめは陽気になりやすい一方、涙もろくなったり怒りっぽくなったりすることもあります。さらに量が増えると感情のコントロールが利かなくなり、記憶が飛んだり思考力が落ちたりし、歩行や呼吸に影響が出たり意識を失ったりする急性アルコール中毒に至ることもあります。一気飲みによる死亡事故が報じられることもあり、自分の限界を把握せずに飲むことの危険性がうかがえます。2020年のデータでは、沖縄県は全国平均より多量飲酒をする人の割合が高く、飲酒運転事故率も長年にわたって全国でもワースト上位が続いています。
お酒は胃や腸で吸収されたのち肝臓で分解されますが、分解にかかる時間には個人差や男女差があります。純アルコール20g相当(ビール500ml程度)を分解するのに、女性でおよそ2〜5時間、男性でおよそ1.5〜4時間かかるとされます。ほかにも年齢(中年層のほうが分解が早い)、体格(大柄なほうが早い)、体質(飲んでも赤くならない人のほうが早い)、睡眠の有無(起きているときのほうが早い)、食事の有無(食後のほうが早い)といった要因が分解速度に影響します。「少し寝れば運転しても大丈夫」と考えて仮眠をとると、かえって分解が進まないまま飲酒運転で検挙されることもあるため注意が必要です。飲酒事故のおよそ2〜3割は午前6時から10時に発生しており、前夜の飲酒が抜けきらない「二日酔い運転」が原因とされていることから、飲みすぎた翌朝の運転は避けるべきといえます。
眠れないときにお酒に頼る人も少なくありませんが、飲酒は睡眠の質と量の両方に悪影響を及ぼします。寝つきはよくなるものの、途中で目が覚めやすくなり睡眠の効率も下がることが知られています。寝るための飲酒を続けるうちに効果が薄れて量が増え、結果として依存症につながる人もいます。「眠れないときどう対処しているか」という調査では、日本人の3割が飲酒で対処すると答えており、これは国際比較のなかでも高い割合でした。厚生労働省の調査でも、成人男性の約1割、女性の約5%が寝るための飲酒習慣を持っており、週1回以上そうした飲酒をしている人は男性で約半数、女性でも2割近くにのぼるという報告もあります。飲酒は不安や抑うつ症状とも関連が強く、うつ病を悪化させるほか、酔いによる衝動性の高まりが自殺リスクを引き上げるとも指摘されています(1日に日本酒2合半以上を飲む習慣は自殺リスクを高めるとされます)。適正な飲酒量を心がけることが大切です。
「酒好き」と「アルコール依存症」を分けるのは、飲む量や時間を自分でコントロールできるか、飲むべきでない場面で控えられるかどうかです。「明日は朝早いから、今日は控えめにしよう」と考えたとき、酒好きの人は実際にその通り飲酒量を減らせますが、依存症の人は想定通りにいかず、結局いつもと同じ量を飲んでしまいます。ただしこの境界ははっきりせず、「毎回コントロールできる」→「時々できない」→「たびたびできない」→「毎回できない」というように、少しずつ依存症へと移っていくのが実情です。なお「アル中」は慢性アルコール中毒を指す古い呼び方で、1975年にWHOがこの呼称を使わないことを決め、以降は「アルコール依存症」という表現に統一されています(指している状態自体は同じです)。依存症になっても本人はなかなか自覚できず、家族や職場の人が先に気づくことが多いのが実情です。依存症の核心は、飲酒によって深刻な問題が生じているにもかかわらずやめられない状態にあり、本人が「うまく飲めている」と思っていても、周囲が困っているケースは少なくありません。依存症が疑われる家族や知人がいる場合は、まず本人に飲酒量を振り返ってもらうことをすすめるとよく、厚生労働省が公開している「飲酒チェックツール」を使えば、依存症・危険な飲酒群・適正飲酒のどれに近いかをインターネット上で確認できます。それだけで飲酒量が自然と減る人もおり、専門医療機関の受診をすすめられた場合は一度相談してみるとよいでしょう。声をかける際は「あなたの健康が心配だから」という理由を伝えるのが効果的とされています。
WHOによるアルコール依存症の診断基準は、①飲みたい気持ちが強く抑えられない、②飲む量や時間をコントロールできない、③急に減らしたりやめたりすると症状が出る、④酔うために必要な量が増えた、⑤飲酒が生活の中心になっている、⑥悪い結果が出るとわかっていてもやめられない、の6項目からなり、1年間のうちに3つ以上あてはまると診断されます。治療の基本は断酒、つまりお酒を完全にやめることです。方法はさまざまで、飲まずに過ごす工夫を一緒に考えたり、補助的に薬を使ったりしますが、「飲みたい気持ちそのものをなくす薬」は存在しないため、飲酒せずに済む生活をどうつくるかという工夫が治療の中心になります。病院での治療だけでは限界があり、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)といった自助グループへの参加が重要な役割を果たします。同じ悩みを抱える人同士が支え合う場に加わることが、回復の大きな支えになります。アルコール依存症は飲酒のコントロールを失う病気であるため、治療の目標は断酒の継続であり、突き詰めれば「一滴も飲まない」という結論に行き着きます。いきなり完全にやめられなくても、相談を重ねながら少しずつ害を減らし、最終的に断酒へとつなげていくことを目指します。行動の変化には時間がかかることが多いものの、もっとも大切なのは相談を続けることであり、お酒の悩みを正直に話せる相手・時間・場所を持っておくことが助けになります。そのための場として、自助グループは大きな意味を持ちます。断酒会やAAといった自助グループでは、お酒にまつわる体験や苦労を分かち合い、希望や情報を交換する場が定期的に開かれており、お酒をやめたいと願う人であれば誰でも参加できます。
出典・参考文献
「市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン」
「薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック(SMARPP)」
2. ギャンブル依存症
2-1. ギャンブル依存症の実態
国内のギャンブル依存が疑われる人の割合は2017年の0.8%から2020年に2.2%へ増加しており、パチンコ・パチスロが依存の中心となっています。
WHO(世界保健機関)はギャンブル依存を疾病として位置づけています。国内の実態調査では、ギャンブル依存が疑われる人の割合は2017年時点で0.8%だったものが、2020年には2.2%まで上昇しており、この水準は国際的に見ても低くありません。
相談件数についても、依存全般では横ばいが多い中、ギャンブルに関する相談は年を追うごとに増える傾向にあります。
日本でギャンブル依存が広がりやすい背景には、パチンコなどが日常生活に溶け込んでいる点があります。カジノを持つ国であっても、多くの住民が日常的にそこへ通うわけではありません。しかし日本では、仕事帰りや買い物のついでに気軽にパチンコへ立ち寄れる環境があります。2020年の実態調査でも、依存が疑われる人が直近1年間で最もお金を使ったギャンブルはパチンコ・パチスロが7割近くを占めていました。加えて、新型コロナウイルス流行期の外出自粛で人との接触が減り、収入面の不安も重なったことで、ギャンブルにのめり込んだ人が少なくなかったとも指摘されています。自宅からでも参加できる競馬などのインターネット投票の広がりも、依存を助長する一因になっています。
2-2. 対象となるギャンブルと「好き」との違い
パチンコや公営ギャンブルのほか株取引やガチャも対象となり、「自分をコントロールできるかどうか」が好きと依存の分かれ目です。
パチンコ・パチスロは法律上「遊技」に分類され、ギャンブルそのものとしては扱われていません。しかし実際には、これらの遊技結果に金銭を賭ける形になっており、日本におけるギャンブル依存の多くはパチンコ・パチスロが関わっています。
法律上「公営ギャンブル」と位置づけられる競馬・競輪・競艇・オートレースのほか、短期売買で利益を狙う株式取引や外国為替証拠金取引(FX)、オンラインゲームの抽選課金(いわゆるガチャ)も、依存の対象になり得ると考えられています。今後、カジノを含む統合型リゾート(IR)の運営が始まれば、カジノもこの対象に加わっていくと見られています。
「ただ好き」なのか「依存」なのかを分けるポイントは、自分の行動をコントロールできているかどうかです。単にギャンブルが好きな人であれば、週末だけ、あるいは決めた予算内でと、自分なりに歯止めをかけられます。一方、依存の状態にある人は、ギャンブルをしたいという衝動そのものを抑えられなくなり、控えたほうがよいとわかっていても時間や場所を問わず手を出してしまい、結果として心身の健康や仕事、家庭生活を犠牲にしてしまいます。
2-3. ギャンブル依存の特徴と症状
負けを取り戻そうとする深追いや賭け金のエスカレート、家族への嘘などが特徴で、渇望・耐性・コントロール障害といった症状がみられます。
ギャンブル依存に共通してみられる行動として、負けを取り戻そうとして際限なく賭け続けてしまう「深追い」、勝っても引き際を逃してしまうことが挙げられます。もともとギャンブルは仕組み上勝ちにくくできているにもかかわらず、「次こそ取り返せる」という思い込みから抜け出せなくなるのです。
また、最初はごく少額で楽しんでいたはずが、脳が刺激に慣れていくにつれて物足りなくなり、より大きな金額を賭けるようになる傾向もみられます(1回に数万円から数十万円を投じ、借金への抵抗感も薄れていきます)。日常生活よりもギャンブルを優先するようになり、家族との関係や仕事をおろそかにしてしまうこと、のめり込みを知られたくないために家族に嘘を重ねてしまうことも典型的な特徴です。
診断の目安となる症状としては、頭からギャンブルのことが離れない「とらわれ」、賭けられない状況でいらだちを覚えること、同じ金額では満足できなくなる「耐性」、一度やめる決意をしても些細なきっかけで再開してしまうこと、衝動が抑えられず判断力が低下すること、問題が生じても続けてしまうこと、そして何よりも優先してしまうことなどが挙げられます。
2-4. お金の問題と家族への影響
借金や横領に発展することもあり、家族も経済的な問題や家庭崩壊といった深刻な影響を受けやすくなります。
ギャンブル依存がもたらす弊害のうち、最も深刻なのが金銭面の問題です。何よりもギャンブルを優先するため、嘘をついてまで時間や資金を工面し、借金を重ねてしまいます。家族の預金を無断で使い込んだり、勤務先の資金に手をつけたりするケースも報告されており、本人には罪悪感がありながらも「少し借りているだけ」「勝てば返せる」という考えに流されやすくなります。
警察庁の集計では、全国で摘発された刑法犯のうちパチンコを含むギャンブル依存が動機・原因とされた件数は増加傾向にあり、2021年には3365件にのぼりました。窃盗や詐欺、横領といった知能犯が多くを占めています。こうした経済的な行き詰まりは、本人を追い込み、自暴自棄や希死念慮につながる大きな要因にもなります。
家族への影響も見過ごせません。令和3年度の実態調査では、家族や周囲が受けた影響として経済的な負担や借金の肩代わりを挙げる声が多く、別居や離婚といった家庭の崩壊、本人への怒りを感じたという回答も少なくありませんでした。本人が脳の機能面で問題を抱えている以上、自力で状況を立て直すことは難しく、家族がケアや後始末に追われることも多いのが実情です。
2-5. なぜギャンブル依存になるのか
脳内報酬系のドーパミンと前頭前野の機能低下という脳のメカニズムに加え、遺伝や家庭環境などの要因が重なって発症すると考えられています。
ギャンブル依存の背景には、脳の機能に生じる変化があると考えられています。脳内には「報酬系」と呼ばれる神経のネットワークがあり、快感や高揚感を覚えるとドーパミンという神経伝達物質が放出されます。ギャンブルで勝った際にもこの仕組みが働き、脳は「ギャンブルをすれば快感が得られる」と学習してしまいます。
ところが同じ刺激を繰り返すうちに反応が鈍くなり(耐性)、以前と同じ賭け方では満足感が得られなくなるため、より高額な賭けに手を伸ばすようになっていきます。
あわせて、理性的な判断をつかさどる前頭前野の働きが低下することも知られています。通常であれば自分にブレーキをかけられますが、依存が進むとこの判断力が働きにくくなり、負けが続いても根拠のない自信に支配されやすくなります。
発症のきっかけは一つに特定できませんが、リスクを高める要因としては、家族にギャンブル問題を抱える人がいる場合の遺伝・環境の影響、若いうちからギャンブルに触れていたこと、始めた頃に大きく勝った経験(いわゆるビギナーズラック)、身近にギャンブル環境があることなどが挙げられます。また、アルコールや薬物の乱用、うつ病や不安障害、注意欠如多動性障害(ADHD)などを抱えている人は、ギャンブル依存のリスクも高いとされ、これらの要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。
令和3年の実態調査によれば、ギャンブルを始めた平均年齢は20歳前半、月1回以上の習慣になった平均年齢は23〜30歳ほどで、公的相談機関を訪れるのは40歳代が中心という結果が出ています。1か月あたりの賭け金の中央値は、相談機関の利用者で7.5万円、自助グループ参加者で10万円と報告されています。
2-6. 回復できるのか、治療の実際
完治はしなくても「回復」は目指せる病気で、9項目中4項目以上の該当で診断され、認知行動療法と引き金を避ける生活が治療の中心になります。
ギャンブル依存は、他の病気のように「完治」という状態には至りにくいとされています。これは、依存によって変化した脳の回路が残り続けるためです。とはいえ、一生治療を受け続けなければならないわけではなく、ギャンブルなしで支障なく生活できる状態を「回復」と呼び、そこを目指すことになります。
重症化する前に適切な対応をとれば早期の回復も見込めますし、たとえ重い状態であっても回復は可能です。
一方で、ギャンブル依存は再発が起こりやすい病気でもあります。何気なく目にしたギャンブルの情報がきっかけで手が伸びてしまったり、回復したつもりでも現金を手にした拍子に賭け事をしてしまったり、軽い気持ちから元の状態に戻ってしまうこともあります。こうした場面で支えになるのが、同じ立場の人とつながる自助グループです。経験や気持ちを共有し合うことが、再発の防止に役立つとされています。
診断は、過去12か月のうちに、賭け金を増やしたくなる、賭けられないといらだつ、減らそうとしてもうまくいかない、頭から離れない、負けを取り戻そうとする、嘘をついて隠す、人間関係や仕事を危うくする、借金を重ねるなど、9つの項目のうち4つ以上に当てはまるかどうかで行われます。治療の柱となるのは認知行動療法で、ギャンブルに関する考え方のくせを見直しながら、引き金となる状況を避ける生活を身につけていきます。
2-7. トリガーを避ける生活の工夫
ギャンブルへの渇望を生む「トリガー」を把握して避け、ギャンブルに代わる活動で生活を満たしていくことが回復の要になります。
回復のために欠かせないのが、ギャンブルから物理的・心理的に距離を置くことです。そのカギを握るのが「トリガー(引き金)」の把握です。トリガーは人によって異なり、手元に現金があること、給料日という特定の日付、特定の店の前を通ることなど、さまざまな形をとります。
トリガーに触れると軽い渇望が生まれ、そこから強い衝動へとつながっていきます。
対策としては、よく利用していた店の近くを避ける、ギャンブル仲間と距離を置く、現金を持ち歩かない、インターネット投票の会員登録を解除するといった工夫が効果的です。あわせて、トリガーに触れてしまったときの対処法をあらかじめ決めておくことも役立ちます(余分な現金を手にしたらすぐ家族に預けるなど)。
ギャンブルに費やしていた時間を、意識的に別の活動に置き換えることも重要です。運動や読書、家事、趣味など、達成感が得られたり誰かの役に立ったりする活動に取り組むことで、手持ちぶさたな時間を減らし、依存への逆戻りを防ぎやすくなります。治療の現場では1週間の生活記録をつけてもらうことも多く、自分の生活リズムやギャンブルをしたくなる時間帯を可視化することが、再発防止の計画づくりに役立ちます。
なお、治療をやめてもすぐに元の状態に戻ってしまうとは限らず、多くの人が一度は「スリップ」(一時的な再開)を経験しながらも回復に向かっています。スリップに気づいたときは自分を責めすぎず、早めに医療者や家族に相談することが、本格的な再発を防ぐ鍵になります。
2-8. ギャンブル依存Q&A
「次は勝てる」という考え方の癖への対処法や還元率の仕組み、借金問題への向き合い方や家族のサポートのポイントを紹介します。
治療中に「次こそ勝てる」「自分なら勝負をコントロールできる」といった考えが浮かんでしまうという相談は少なくありません。これはギャンブル依存に特有の考え方のくせ(認知の歪み)であり、認知行動療法では「その考えに根拠はあるか」「他人に説明して納得してもらえるか」と自問する方法がすすめられています。
あわせて、還元率(賭けた金額に対してどれだけ戻ってくるかを示す割合)を知っておくことも有効です。日本国内の還元率は、宝くじでおよそ45.7%、競馬など公営ギャンブルで74.8%(税金を差し引くと実質58.5%程度)、サッカーくじで50%、パチンコは店舗差があるものの一般に85%前後とされ、いずれも100%を超えることはありません。ギャンブルは運営側の収益を前提に成り立っている以上、還元率が100%を超えることはなく、続ければ続けるほど手元の資金は減っていく仕組みになっています。
借金の問題については、家族が肩代わりをすると、本人が「また借りられる」という感覚のまま同じことを繰り返しやすく、回復を遅らせてしまうことが知られています。まずは借入先の全体像(金融機関だけでなく勤務先や知人からの借入も含め)を把握したうえで返済計画を立て、本人が働いて返していくことが基本になります。計画どおりの返済が難しい場合は、弁護士など専門家に相談し、任意整理や特定調停、個人再生、場合によっては自己破産といった法的な整理を検討することになります。現金をなるべく持たせない、身分証明書を家族が管理してカードローンの契約を防ぐ、消費者金融からの借入を制限する「貸付自粛制度」を利用するといった工夫も、資金へのアクセスを絞るうえで役立ちます。
家族自身が疲弊してしまうことも少なくありません。説得や叱責をしても状況が変わらず、本人から強い言葉をぶつけられることもあります。家族会に参加して同じ立場の人と経験を共有することもすすめられます。本人とのコミュニケーションでは、「私」を主語にして気持ちを伝える、具体的で前向きな言い方を選ぶ、禁止ではなく提案として伝える、といった工夫(家族支援プログラムCRAFTで示されている考え方)が有効とされています。世話を焼きすぎず、本人との間に適切な距離を保ちながら見守る姿勢が、結果的に回復を後押しします。
出典・参考文献
「ウルトラ図解ギャンブル依存」
「標準的治療プログラム(STEP-G)第2版」
「ギャンブル依存症」
3. ゲーム依存症
3-1. ゲーム障害とは
2019年にWHOが「ゲーム障害」を国際的な疾患として認定し、日常生活より優先してしまう状態が12ヶ月続くことが定義とされています。
2019年5月、世界保健機構(WHO)は、テレビゲームやスマートフォンなどのゲームにのめり込みすぎて日常生活に支障をきたす状態を、国際的に「ゲーム障害」という疾患として認めました。同じく5月に改定されたWHOの疾病分類(ICD-11)でも、ギャンブル依存症などと同じ精神疾患に分類され、治療が必要なものと位置づけられています。
ゲーム障害は、単なるゲーム好き、ゲームに没頭しているというレベルを超えた状態で、日常生活の活動よりもゲームを優先してしまい、それによって問題が起きているにもかかわらずやめられない状態が12ヶ月続くことと定義されています。たとえば、オンラインゲームにはまった高校生が、朝までネットで知り合った友だちとゲームをやり続けて昼夜逆転し、家族に制止されると暴言や暴力がみられるようになって、しまいには退学してしまったケースや、スマホゲームにはまった会社員が、食事中も入浴中もスマホが手放せず家族関係が悪化し、仕事中もやめられず運転中にもゲームをして事故を起こしてしまったケースなどが報告されています。
3-2. 健康か依存か、どこからが病気か
「自分でやめられるかどうか」が健康と依存の分かれ目で、健康状態と社会生活の両方が崩れていればゲーム依存症の可能性があります。
健康と依存の主な違いは、明らかな問題となる前に「自分でやめられるかどうか」にあります。問題が起こり始めたときに利用のしかたを見直せるのであれば、やりすぎている状態ではあってもまだ健康の範囲といえます。
一方、依存の場合は、ゲームのやりすぎだと薄々気づいていても「もっとやりたい」という気持ちが強く自分ではやめられず、人に注意されてもゲームを続け、指摘されると暴言を吐いたりします。睡眠不足や課金のしすぎなどの問題が起きていても、それを問題として認めないことも特徴です。ゲームで健康状態や社会生活が崩れたら、ゲーム依存症の可能性があります。健康状態の悪化としては、昼夜逆転や睡眠の障害、イライラ・怒りっぽいといった情緒不安定、服装や入浴など衛生面の乱れ、食事をなおざりにすることによる体重減少がみられます。社会生活の悪化としては、学校の成績や仕事への悪影響、家事・育児の役割放棄、遅刻・欠席、家族への攻撃的な言動・態度・暴力、ゲームについて嘘をついたりごまかしたりすること、課金による家計への影響や支払いの困難さが挙げられ、健康状態と社会生活の両方の悪化がそろえば、ゲーム依存症と考えられます。
3-3. なぜ気づきにくいのか
依存に気づくのは多くの場合本人ではなく家族で、否認や現実逃避が背景にあることも少なくありません。
ゲームへの依存に気づくのは、多くの場合本人ではなく家族です。本人と家族の間には認識のズレがあることが多く、家族が「ゲームのために昼夜逆転していて心配」「1日10時間以上もやっていてよくないことをわかっているはずだ」と感じていても、本人は「家族は気にしすぎている」「ゲームは好きだけど依存症ではない」「本当に問題が起こったらやめればいい、いつでもやめられる」と考えていることが少なくありません。
依存症は「否認の病」ともいわれ、やりすぎを指摘されると「ちょっとやりすぎただけ」「放っておいてくれ」「スマホゲームはみんなやっている」と怒ってしまうこともあります。ゲームに限らず依存症になる方には、依存症になる前から生活に対する虚無感や自己否定的な感情があることが背景として考えられており、こうした場合には、本人が抱えている問題そのものに耳を傾けることが大切です。
3-4. ゲーム依存症の実態、なりやすい人
現在の定義による推計有病率は5%以内とされ、未成年・男性・友人の少なさなどが危険要因として挙げられています。
ゲーム依存症の患者数については、世界で37の研究をまとめると推計有病率は0.7〜27.5%とばらつきがあり(定義を広くとらえた研究も含まれています)、現在のゲーム依存症の定義に合わせると5%以内であると推計されています。年齢・性別でみると、成人に比べて未成年が、女性に比べて男性がなりやすいことがわかっています。
なりやすさに関わる要因は、大きく三つに分けて考えることができます。一つ目は生活環境に関わるもので、母子・父子家庭であることや、友人とのつながりが少ないことが挙げられます。二つ目はゲームとの関わり方そのもので、プレー時間が長いこと、ゲームに関連したトラブルを既に抱えていること、衝動を抑えにくい傾向があることが該当します。三つ目は物事の受け止め方で、ゲームをすること自体を肯定的にとらえる度合いが強いことが挙げられます。
反対に、なりにくさに関わる要因としては、学校や会社などの所属先でうまくコミュニケーションがとれていること、そこに楽しさを感じられていること、自分の行動を自分でコントロールできている感覚があること、社会的な能力や自己評価が高いことなどが挙げられます。年齢でいえば成人のほうがなりにくいとされています。
これらの要因から見えてくるのは、ゲーム以外の場所で現実生活の充実感やつながりを得られているかどうかが鍵になるということです。コミュニケーションの機会を増やしたり、ゲーム以外の活動を生活に取り入れたりすることで、ゲームに費やす時間や回数を自然に減らしていくことが対策として有効です。自然に回復する人も多い一方、未成年者は回復しにくい傾向があるとされています。
3-5. スマホゲームが依存しやすい理由
無料開始やガチャなど意図的にやめにくい設計がされており、スマホ利用者の3割がスマホゲームを利用しているという調査もあります。
スマホゲームが手軽になったことで、依存も増えているといわれています。スマホは手軽にでき、いつでもどこでもできて、常にインターネットにつながるオンラインであることが、依存との親和性を高めています。オンラインゲームでは、ゲームを通じて顔の見えないユーザーから称賛されたり、ゲーム内で会話を利用できたりするようになりました。
これは、普段から現実世界でうまく適応できない人にとって大変魅力的で、承認欲求を満たしたり自己肯定感を感じられたりする体験になります。スマホゲームには、無料で始められる、アップデートで飽きさせない、通知機能でアップデートが知らされる、レアアイテムや毎日ログインするとボーナスがもらえる、クリア(終わり)という概念がなく永遠に続くといった、意図的にやめにくい構造がつくられているという特徴があります。また、一定額を課金するとランダムにアイテムがもらえる「ガチャ」という仕組みは、レアアイテムの確率が低く、何が出るのだろうという高揚感を感じやすく射幸心を煽る、ギャンブル性の高い仕組みになっています。ゲーム会社が運営する研究所による、15〜69歳の男女4400人を対象とした実態調査では、スマホを持っている人の29.8%がスマホゲーム利用者で、1日1時間以上スマホゲームをプレイするヘビーユーザーは40.1%、1日あたりのプレイ時間は130分というデータもあります。運転中のいわゆる「ながらスマホ」事故にも、スマホゲーム依存の影響があると指摘されています。
3-6. セルフチェックと対処法
10項目中5つ以上当てはまれば注意が必要で、プレイ時間を記録する「行動記録表」から始める対処法が効果的です。
ゲーム依存症のセルフチェックとしては、次の10項目のうち5つ以上当てはまるかどうかが目安になります。ゲームをしていないときにゲームのことをよく考える、ゲームがまったくできないとソワソワしたり不安・悲しい気持ちになる、過去1年以内に以前より長時間ゲームをする必要があると感じた、過去1年間にゲームを減らそうとしたがうまくいかなかった、過去1年間に友人と会ったり他の楽しいことよりもゲームを優先した、ゲームによって何らかの問題(宿題、家族・友人との喧嘩、金銭など)が生じているにもかかわらず長時間ゲームをしてしまう、自分がどのくらいゲームをしたかばれないよう家族や友人に嘘をついたことがある、嫌な気持ちを晴らすためにゲームをしたことがある、ゲームのために大切な人間関係を失ったことがある、過去1年間にゲームのために社会生活がうまくいかないことがあった、という項目です。
ゲーム依存症かもしれないと思ったら、まずゲームのプレイ時間を記録することがすすめられます。日記のように、毎日の起床時間・食事・入浴・勉強・仕事・休息・ゲーム・インターネット・就寝時間といった生活の時間と出来事を記録し、「楽しいから」「暇つぶし」「結果が出ると興奮するから」「新しいアップデートが出たから」「習慣になっているから」など、ゲームをプレイした理由をシンプルに書き添えます。これは認知行動療法の手法である「行動記録表」と呼ばれるものです。そのうえで、食事中や寝る前などゲームをしてはいけない時間をつくる、無理のない範囲でプレー時間の上限を設定する、通勤中はしないなど短時間から取り組みやすいことから始める、読書や運動といった健康維持につながる別の行動に置き換える、信頼やお金、社会的役割など日々失っているものを考える、ゲームをやらなければ実現できたかもしれないこと(勉強や交流など)を考える、携帯電話やゲームから離れる「オフラインタイム」をつくる、携帯電話の通知を切っておくなどゲームのきっかけを避けるといった工夫が有効です。
3-7. 家族の対応
一方的なルールの押しつけや強制的な遮断は逆効果になりやすく、建設的な対話とゲーム時間が減ったときに褒めることが大切です。
家族の対応の基本は、対話です。久里浜医療センターが提唱する「建設的対話法」を参考にすると、①依存によって実際に生じている困りごとを共有する、②ゲームに費やす時間をどう減らしていくか話し合う、③今後どう改善していくか一緒に考える、という順で話を進めるとよいとされています。
会話の際は、「そのゲーム楽しい?」などゲームについて本人にいろいろ質問してみること、ルールづくりは本人を交えて家族全員で行い、なぜそのルールが必要かを話し合うこと(一方的にルールを押しつけると逆効果です)、親戚や医師など第三者の力を借りて客観的なやりとりにすることがポイントになります。最低限、本人とのやりとりができる程度にはスマホゲームや機器の知識を身につけ、本人の現実生活に関心をもち、ゲームの使用記録をつけてもらうとよいでしょう。なお、強制的にゲームを遮断することは自暴自棄となり、暴力や自殺のリスクにもつながるため注意が必要です。もっとも大切なのは、ゲーム時間が減ったら褒めることです。依存の克服には時間がかかり再発もしやすいものですが、完治しやすい病気でもあるため、一歩ずつ取り組んでいくことが大切です。
出典・参考文献
「スマホゲーム依存症」
「ネット依存・ゲーム依存症がよくわかる本」